国際相続関連で非常に多いご質問です。結構難しいのですが、紹介してみます。
質問
親は日本に住んでいます。
子供は海外に住んでいて仕事しています(扶養親族ではありません)。10年以上になります。
子供が海外で住宅を建てることになりました。お金が必要です。
日本に住んでいる親が、海外に住んでいる子供に対して、日本国内にある親名義の銀行預金口座から贈与しました。
この時に日本の贈与税は課税されますでしょうか?
回答
本件については過去に裁判例などもあって、実務的にはほぼ確定していると考えて良いでしょう。
贈与税も相続税と同じで、納税者の区分に応じて課税財産の範囲が異なります。
本件の場合、子供が10年以上海外に住んでいて、日本国内に住所がないので、制限納税義務者に該当します。制限納税義務者については以下をご参照ください。
その場合日本国内にある国内財産のみに課税されます。
もう少し詳しい解説
贈与というのは、「あげる」「もらいます」という両者の意思があって初めて成立する行為です。その意思を証明するためには、贈与契約書が必須です。でも贈与契約書がない場合もあるでしょう。
法律上、贈与という行為が成立するタイミングは以下のように定められています。
贈与は贈与契約がある場合にはその贈与契約効力発生時に、契約書面がない場合にはその履行時に成立したものとされます(相続税基本通達1の3・1の4共-8)。
したがって、贈与契約がない場合には、送金実行前に親から子供への贈与契約が成立し、その贈与契約履行の目的で国外送金手続きが取られると見ます。
国内にあった銀行口座の預金を海外送金したのであれば、それは日本の贈与税の課税対象になると考えます。
なぜなら、現金などは動産は贈与による財産取得時のその動産の所在する場所により内外判定をするからです。詳しくはこちらをご参照ください。
裁判結果
過去に裁判で争われたことがあります。裁判結果をご紹介しましょう。
東京高等裁判所 平成14年9月18日 納税者敗訴
事案の概要及び争点
被相続人である父がアメリカ在住の子供に対して国外送金により約2000万余りを生前贈与して、相続人である子供がその生前贈与財産を相続税の課税財産に加算すべき相続開始前3年以内の贈与として申告をした後に、当該贈与財産は加算対象ではないとして更正の請求を行った事案です。
送金をした場合の贈与財産の所在が国外か国内かの判定および贈与契約成立時期との関係が争点でした。
判決の要旨
子供は送金を受けた当時、アメリカに居住し、日本に住所を有していませんでした。当時の法律では、取得した時点において日本に所在する財産であった場合に限り、子供は贈与税の納税義務を負うことになっていました。
高裁では、まず贈与契約が成立し、その履行のために送金手続きが取られたと考えるとされました。贈与契約時点で、日本国内に存在した金銭について贈与を受けたと考えます。
納税者は贈与契約締結時に贈与者が日本に有していた金銭の贈与を受けたとみることができるとのことでした。
また相続実務上、書面によらない贈与については、その課税時期を履行の時としており、本件の場合、贈与者が送金の手続きを完了した時に受贈者の権利が確定されたとします。
いずれにしても、日本国内からの贈与については、日本の贈与税が課税されることになります。
ただこの裁判においては日米相続税条約も検討しなければなりません。租税条約において、財産の所在の判断なども踏まえて最終的な判断をする必要があると考えます。
反対のケースも紹介しています。こちらをご参照ください。