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新事業承継税制を受けた後

目次

1.贈与税の特例納税猶予の適用を受けた後の手続きを教えてください

非上場株式を贈与して、贈与税の納税猶予を受けるためには、贈与税の申告が必要になります。
 
その後も引き続き手続きが必要になります。
 
<贈与後5年間>
贈与税の申告期限の翌日から1年を経過する日を”基準日”とします。
 
都道府県庁に対して
その基準日から3か月以内に都道府県庁に対して報告書を提出します
 
税務署に対して
その基準日から5か月以内に、都道府県庁から交付された要件に該当する旨の確認書を添付して届出書を税務署に提出します。
 
<贈与後5年後>
贈与税の申告期限の翌日から5年を経過する日の基準日を経過した後は、都道府県庁への届出は不要になります。
 
しかし、贈与税の申告期限の翌日から5年を経過する日の翌日から3年を経過する日を基準日として、その翌日から3か月以内に税務署へ届出書を提出します。それは相続が発生するまでずっと提出する必要があります。

2.贈与税の特例納税猶予の適用を受けた後に注意しなければならないことを教えてください

(1)後継者が代表権を有しないこととなった
 
ただし身体障害等のやむを得ない場合により代表でなくなったときは、この限りではありません。
 
(2)基準日における常時使用する従業員の数が、贈与日の常時使用する従業員数の80%に満たないこととなった
 
ただし認定経営革新等支援機関の意見が記載されている”雇用確保要件を満たせない理由を記載した書類”を都道府県庁に提出すればよいこととなっています。ただその書類の提出を忘れないようにしなければなりません。
 
(3)代表者とその同族関係者が有する議決権等が、総議決権の50%以下になった
 
新株発行や第三者割当増資を行うときは要注意です。
 
(4)代表者の持株数等を超える持株数等を有する株主がいた
 
他の同族関係者との株主の移動がある場合は要注意です
 
(5)贈与税の納税猶予を受けている株式の一部または全部を譲渡又は贈与した
 
贈与を受けた株式等は5年間は1株も漏らさず保有し続ける必要があります。
 
(6)対象となった会社が解散をした、もしくは会社法の規定などにより解散したとみなされるとき
 
(7)対象となった会社が資産保有型会社または資産運用型会社に該当することとなった
 
会社で不動産を保有することとなった、会社で保有していた有価証券を売却したなどのケースが要注意になると考えます
 
(8)対象となった会社の売上(総収入金額)がゼロとなった
 
営業外収益、特別利益は含みません。つまり銀行口座の利息があってもダメなのです。
 
(9)対象となった会社で減資をした
 
ただし欠損填補を目的とした減資だけは認められるとされています。
 
(10)納税猶予の適用を受けることをやめる旨の届出書を税務署に提出した場合
 
(11)拒否権付き株式(いわゆる黄金株)を後継者以外の方が有することとなった
 
拒否権付き株式(いわゆる黄金株)は、必ず贈与により後継者に渡さなければなりません。そして黄金株は後継者が保有しなければならないということになっています。
 
(12)株式の一部を、議決権を行使できる事項につき制限のある株式に変更した場合
 
会社法により、株式の設計(配当や議決権)はかなり柔軟にできるようになっています。しかし贈与後5年間は、議決権の設計は変更すると、納税猶予が取り消される事項になってしまいます。
 
(13)毎年提出しなければならない報告書が期限内までに税務署に提出されない
 
(14)その他、以下のものがあります
  • 上場をした
  • 性風俗業を営むようになった
  • 会社分割をして、吸収分割会社の株式等を配当財産とする配当があった
  • 組織変更をして、株式以外の財産の交付があった
  • 適格合併以外の合併により会社が消滅した
  • 適格株式交換以外の株式交換等により、他の会社の完全子会社となった
  • その他、偽りの事実があると判明した場合
 
上記の(14)を見る限り、贈与の後5年間は組織再編をしない方が良いという印象です。たとえば適格合併を行ったとしても、後の税務調査で適格合併ではなく、非適格合併であるという指摘を受けた場合、納税猶予が取り消される可能性があるからです。
 
1人のオーナーが複数の会社を保有しているケースもよく見ます。顧問税理士の提案により設立した会社で、会社設立時は節税の効果などがあったのかもしれませんが、現在では分けている意味がないこともあるでしょう。そのような場合には、納税猶予を受ける前に組織再編を行って、会社を事前に統合しておくということも必要になるかもしれません。
 

3.贈与税の特例納税猶予の適用を受けて、5年を経過した後に注意しなければならないことを教えてください

以下の事由が発生すると猶予されている贈与税の全額を納付しなければなりません。なお基準日における雇用の平均が、贈与時の8割は上回っていないといけません。
 
(1)贈与税の納税猶予を受けている株式の全部を譲渡又は贈与した
 
(2)対象となった会社が解散をした、もしくは会社法の規定などにより解散したとみなされるとき
 
(3)対象となった会社の売上(総収入金額)がゼロとなった
 
(4)対象となった会社が資産保有型会社または資産運用型会社に該当することとなった
 
(5)対象となった会社で減資をした
 
(6)納税猶予の適用を受けることをやめる旨の届出書を税務署に提出した場合
 
(7)3年ごとに提出しなければならない報告書が期限内までに税務署に提出されない
 
以下の事由が発生すると猶予されている贈与税の一部を納付しなければなりません
 
  • 会社分割をして、吸収分割会社の株式等を配当財産とする配当があった
  • 組織変更をして、株式以外の財産の交付があった
  • 適格合併以外の合併により会社が消滅した
  • 適格株式交換以外の株式交換等により、他の会社の完全子会社となった
  • 贈与税の納税猶予を受けている株式の一部を譲渡又は贈与した
 
なお、納税猶予適用から5年を経過していると、後継者による経営がうまくいっていないなどの理由により、先代経営者が代表者として復帰することが認められています。ただ個人的な意見ですが、新事業承継税制の主旨からすると、積極的に復帰すべきだとは考えません。
 

4.相続が発生した場合の取扱を教えてください

先代経営者や後継者が死亡により相続が発生した場合には、贈与税の猶予納税額は免除されます。この場合、相続発生後6か月以内に、納税地の所轄税務署長に届出をしなければなりません。
 

5. 5年経過後にはM&Aをしても良いのでしょうか?

はい、一定の手続きが必要となりますが、猶予納税額の一部が免除されます。具体的に以下の事由が該当します。
 
(1)後継者と特別の関係のない者に株式の全部を譲渡した
(2)民事再生法、会社更生法に基づく譲渡
(3) 破産手続き開始決定または特別清算手続き開始決定があった
(4) 合併により消滅した
(5) 株式交換等によりほかの会社の完全子会社になった
 

この記事の執筆者

片山 康史

税理士 / 中小企業診断士

プロビタス税理士法人代表。 「自分の知識と経験で皆を幸せに」をモットーに、税務の問題を解決する情報を発信しています。外資系企業向けの国際税務が得意です。