ミニマムタックスとは?その計算方法と税制改正の影響と対策| 株式売却・M&Aへの影響を税理士が解説

目次

1. はじめに:「30億円以上」という報道は本当か?

ミニマムタックスについて調べると、「対象は年収30億円以上の超富裕層」という説明が目につきました。しかし、この数字はあくまで財務省が示した「平均的な所得構成での目安」にすぎず、実際には所得の内訳によって対象となる閾値は大きく変わります。

たとえば、所得がすべて上場株式の配当・譲渡益など金融所得の場合、約10億円から本制度の対象となりえます。さらに令和9年(2027年)分からの改正後は、その閾値が約3.3億円まで引き下がります。

本記事では、「実際には誰が対象になるのか」「追加でいくら納税が必要になるのか」を、具体的な計算例とともにわかりやすく解説します。

2. 導入の経緯:「1億円の壁」を是正するために

日本の所得税は累進課税で、給与・事業所得の最高税率は45%(住民税込で55%)です。一方、株式の配当・譲渡益などの金融所得には一律20.315%の税率が適用されます。

この仕組みの結果、所得が増えるにつれて金融所得の割合が高まる富裕層ほど実効税率が下がるという「逆転現象」が生じていました。財務省のデータでは所得が1億円を超えたあたりから実効税率が低下し始め、これが「1億円の壁」と呼ばれています。

この不公平を是正するため、2023年度税制改正でミニマムタックスが創設され、2025年(令和7年)分の所得から適用されています。正式名称は「特定の基準所得金額の課税の特例(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)」、租税特別措置法第41条の19に規定されています。

参考:国税庁「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化(ミニマムタックス)の適用がある場合の申告並びに予定納税と源泉徴収による所得税の控除方法について」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/gengaku/gengaku.htm

3. 税額の計算方法

適用の判定式(現行:2025〜2026年分)

(基準所得金額 − 33,000万円)× 22.5% > 基準所得税額 → 上記を満たす場合、差額分を追加で申告納税

各用語の意味

  • 基準所得金額:申告不要制度を適用せずに計算した合計所得金額。上場株式の配当・譲渡益など、通常は申告不要にできる所得も含めて計算する。ただし、NISAやエンジェル税制による非課税所得は除外。
  • 基準所得税額:その年の基準所得金額に対する通常の所得税額(外国税額控除などは含まない)。
  • 特別控除額:3億3,000万円(2025〜2026年分)。この額を超える部分にのみ22.5%を乗じることになります。
  • 所得:所得と売却額は異なります。株式譲渡の場合の所得はキャピタルゲインであり、売却額ではありません。

4. ※「合計所得金額」とは

一般に「合計所得金額」とは、給与所得・事業所得・不動産所得・譲渡所得・配当所得などを合算した金額を指します。

ただし、ミニマムタックスで使う「基準所得金額」は通常の合計所得金額とは異なります。通常は「申告不要制度」を選択することで合計所得金額から除外できる上場株式等の配当所得や譲渡所得が、基準所得金額には含まれます。

つまり、特定口座(源泉徴収あり)で管理している株式の譲渡益なども、ミニマムタックスの計算では合算しなければなりません。これが、「自分には関係ない」と思っていた方が対象になる理由の一つです。

除外されるもの:NISA(少額投資非課税制度)、エンジェル税制(一定のスタートアップ再投資)による非課税所得

5. ①現行制度(2025〜2026年分):追加納税シミュレーション

株式譲渡所得と上場株式配当(申告分離制度)はいずれも所得税率15%が適用されるため、同じ金額であれば追加納税額も同じになります。以下の表で実際の金額を確認してください。なお簡便にするために復興・防衛特別税等は含んでおりません。

所得の種類と金額通常の所得税額 (所得税15%)ミニマムタックス ((所得-3.3億)×22.5%)追加納税額
株式譲渡所得のみ 10億円1億5,000万円(10億-3.3億)×22.5% =1億5,075万円75万円
株式譲渡所得のみ 30億円4億5,000万円(30億-3.3億)×22.5% =6億750万円1億5,075万円
上場株式配当のみ 10億円1億5,000万円(10億-3.3億)×22.5% =1億5,075万円75万円
上場株式配当のみ 30億円4億5,000万円(30億-3.3億)×22.5% =6億750万円1億5,075万円

所得税のみを対象とした試算です。復興・防衛特別所得税(所得税額×2.1%)・住民税・所得控除は省略しています。実際の納税額はこれらを加味して計算します。

ポイント:課税の対象となる境界線は所得(キャピタルゲイン+上場配当)約10億円。10億円では追加納税はわずか75万円

10億円の場合、追加納税額は75万円と比較的少額です。これは通常の所得税額(1億5,000万円)とミニマムタックス(1億5,075万円)の差がわずかであるためです。

一方、30億円になると追加納税額は1億5,075万円まで増加します。従来は4.5億円で済んでいた納税額が6億円まで増加します。

6. ②令和9年(2027年)改正:課税が始まるポイントはどこか

2025年12月に公表された2026年度税制改正大綱において、ミニマムタックスの大幅な見直しが盛り込まれました。令和9年(2027年)分の所得から適用される予定です。

改正後は以下の計算式で計算することになります。

X − 16,500万円)× 30% > 基準所得税額 → 上記を満たす場合、差額分を追加で申告納税

税制改正の変更点は2つ

  • 特別控除額:3.3億円 → 1億6,500万円(▼半減)
  • 最低税率:22.5% → 30%(▲引き上げ)

かりに所得がキャピタルゲインと上場配当のみだとした場合、今までは10億円が目安でしたが、2027年以降は3.3億円にまで引き下げられることになります。

 現行(2025〜2026年分)改正後(2027年分〜・令和9年〜)
特別控除額3億3,000万円1億6,500万円(▼半減)
最低税率22.5%30%(▲引き上げ)
課税が始まる目安所得 (金融所得のみの場合)約10億円約3.3億円(▼大幅引き下げ)
株式譲渡所得の最高税率 (復興税・住民税込)約27.5%約35.63%(▲大幅上昇)

上記は税制改正大綱の内容に基づきます。国会での審議を経て確定しますので、最新情報をご確認ください。(参考:大和総研「超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に」2026年2月)

要注意点

この記事では、金融所得(株式のキャピタルゲインや上場配当)のみに焦点を絞って説明していますが、給与所得や不動産の売却益などについても同様の制度が適用されます。間違いなく、ミニマムタックスの対象者が拡大します。

令和9年改正後:課税が始まる所得水準の計算

改正後、金融所得(所得税率15%)のみの場合に課税が始まる閾値は以下の式で求められます。

(X − 1億6,500万円)× 30% = X × 15%  を解くと X = 約3億3,000万円 → 金融所得のみの場合、約3.3億円超から追加納税が発生

現行制度では「約10億円」が目安でしたが、改正後は「約3.3億円」と大幅に引き下がります。これにより、これまで「自分には関係ない」と考えていた中規模M&Aのオーナーや、相続した株式の売却を検討している方にも広く影響が及ぶことになります。

7. ③改正後(令和9年分〜):追加納税シミュレーション

同じ10億円・30億円の所得で、改正後にどれだけ追加納税が増えるか確認します。

所得の種類と金額通常の所得税額 (所得税15%)ミニマムタックス ((所得-1.65億)×30%)追加納税額
株式譲渡所得のみ 10億円1億5,000万円(10億-1.65億)×30% =2億5,050万円1億50万円
株式譲渡所得のみ 30億円4億5,000万円(30億-1.65億)×30% =8億5,050万円4億50万円
上場株式配当のみ 10億円1億5,000万円(10億-1.65億)×30% =2億5,050万円1億50万円
上場株式配当のみ 30億円4億5,000万円(30億-1.65億)×30% =8億5,050万円4億50万円

所得税のみを対象とした試算です。復興特別所得税・住民税・所得控除は省略しています。

現行制度と改正後の追加納税額 比較

所得の種類と金額現行の追加納税額 (2025〜2026年分)改正後の追加納税額 (2027年分〜)増加額
株式譲渡所得のみ 10億円75万円1億50万円+約1億円
株式譲渡所得のみ 30億円1億5,075万円4億50万円+約2億5,000万円
上場株式配当のみ 10億円75万円1億50万円+約1億円
上場株式配当のみ 30億円1億5,075万円4億50万円+約2億5,000万円

改正の影響:10億円で約1億円、30億円で約2.5億円の追加負担増

現行制度では10億円の場合わずか75万円だった追加納税が、改正後は約1億50万円と130倍以上に跳ね上がります。これが改正の本質的なインパクトです。

特に2026年中に株式譲渡を完了させれば改正前の税制が適用されるため、M&Aや事業承継を検討している方にとって、時期の選択が極めて重要です。所得税の特例により、株式譲渡契約の締結が2026年中であれば2026年の所得として申告することが可能です。

8. ミニマムタックス対策として:資産管理会社(ホールディングス)の活用

ミニマムタックス税制の強化により、上場株式を個人で保有し続けることの税負担が大幅に増加します。上場企業の創業者・オーナー経営者が検討すべき「資産管理会社」スキームについて解説します。上場を目指すベンチャー企業の株主も対象になります。

資産管理会社を設立する3つの目的

個人が株式を売却した場合に課税の対象となるキャピタルゲインに対する税率は約15%であり、法人税に比べて低率です。したがって、配当のない法人であり、近く売却する目的であれば、個人で保有している方が税負担は小さいです。ただし受取配当や将来的な相続ということを考えると、法人の方が有利と言うのが今までの制度でした。以下は会社オーナーなどが資産管理会社を設立する目的の3つです。

目的内容
税率差の活用個人の最高税率は55%(所得税45%+住民税10%)。法人の実効税率は23〜34%程度。配当受取は受取配当の益金不算入制度を活用することで、持株比率1/3超であれば法人税をほぼゼロにできる。
相続税の軽減個人が上場株を直接保有していると、相続時に時価がそのまま相続財産になる。資産管理会社を経由すると相続財産は「非上場の資産管理会社株式」となり、純資産価額方式や類似業種比準価額方式による評価により、上場時価より低く評価されることが多い。
事業承継の円滑化株式を「箱(法人)」に集約することで、後継者への承継がしやすくなる。資産管理会社の株式に事業承継税制を適用できるケースもあり、贈与税・相続税の猶予・免除が受けられる場合がある。

個人保有 vs 資産管理会社保有:税負担の比較(株式譲渡所得10億円の場合)

区分個人保有 (改正後・令和9年〜)資産管理会社 (法人)保有
所得税・法人税1億5,000万円+追加1億50万円 =2億5,050万円約2億3,200万円 (実効税率23.2%・大法人の場合)
住民税5,000万円なし(法人には住民税均等割のみ)
合計税負担350万円(実効税率 約30%23,200万円(実効税率 約23%
手取り(法人内留保)約6億9,950万円約7億6,800万円

法人の手取りは法人内の留保資産であり、個人が引き出す際(役員報酬・配当・清算等)にさらに課税されます。完全な節税ではなく「課税の繰り延べ」として理解することが重要です。

中小法人(資本金1億円以下)の実効税率は約34%となり、個人保有と比べた優位性が小さくなります。会社の規模設計も重要です。

■ IPO前後の株式移転コスト:タイミングがすべて

資産管理会社スキームを最大限活用するには、株式を個人から資産管理会社に移転するタイミングが極めて重要です。移転時には「時価での売却」とみなされ譲渡所得税が発生するため、株価が低いほど移転コストが小さくなります。

移転タイミングIPO前(株価が低い段階)IPO後(株価が高い段階)
株価のイメージ数十〜数百円/株数百〜数千円/株以上
移転時の譲渡課税少額(移転コスト小)高額(移転コスト大) +ミニマムタックスも発動しうる
手続き上のポイント現物出資・第三者割当・売買等で移転可能。株価算定が比較的シンプル。上場株の時価が基準となり移転コストが膨らむ。ロックアップ期間にも注意。
総合評価資産管理会社の活用には最適なタイミングコスト・手間が大きく、得られる効果が限定的になる場合がある

ベンチャー・スタートアップ経営者が今すぐ考えるべきこと

ミニマムタックス課税の前では、税負担の観点だけで見れば、個人で株式保有する方が有効でした。個人の方が、キャピタルゲイン・上場株式配当に対する税率が低かったからです。しかしミニマムタックス課税の制度導入後はそうではありません。特に2027年以降は3.3億円を超えてしまうと、その有利性が薄れてしまうことになりました。

そうであれば、個人で保有するメリットがかなり少なくなります。

IPOを目指している段階の経営者にとって、資産管理会社の設立は「将来の税負担をコントロールするための最も効果的な手段」の一つです。

  • シリーズA〜B調達前後、すなわち株価がまだ低い段階で資産管理会社を設立し、一部株式を移転しておくことが理想的です。
  • 資産管理会社への移転は、上場前に弁護士・税理士と連携してスキームを組む必要があります。株主間契約・投資家との調整も必要になるケースがあります。
  • 2026年中(令和8年中)に何らかの手を打つことで、令和9年改正前の税制が適用されます。上場済みのオーナーであっても、まずは現状の株式保有構造の見直しを検討することをお勧めします。
  • 資産管理会社スキームは「完全な節税」ではなく「課税の繰り延べ」です。長期的な、ご自身の相続まで見据えた資産承継プランと組み合わせて設計することが重要です。
  • 詳しくは以下もご確認ください
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なお、資産管理会社を利用した過度な節税スキームについては、税務当局が同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条)等を用いて否認するケースもあります。必ず専門家と相談の上で進めてください。

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