IPOを目指す創業者は資産管理会社をいつ作るべきか? タイミングと税務上のポイント

目次

1. はじめに:上場企業の約半数が資産管理会社を保有している

2024年に上場した企業86社のうち、約半数にあたる39社の創業者・役員が資産管理会社(プライベートカンパニー)を保有していたことが確認されています(IPO Compass調査)。

なぜこれほど多くのIPO経営者が資産管理会社を活用するのでしょうか。そして、ベンチャー企業が一番関心がある「いつ作るべきか」について、本記事では税務の観点から徹底的に解説します。

この記事でわかること
・資産管理会社を作る3つの目的と税務メリット
・IPOの各ステージ別「設立・移転タイミング」の比較
・2027年ミニマムタックス改正後の影響と対策
・実際のスキーム例と概算コスト・節税効果
・やってはいけない注意点とIPO審査への影響

2. 資産管理会社(プライベートカンパニー)とは

資産管理会社とは、個人の保有する株式・不動産などの財産を管理・運用することを目的として設立された法人です。一般的な事業会社と異なり、外部への製品販売などの事業活動は行いません。

IPO経営者の文脈では、創業者・役員が保有する「自社株」の受け皿として機能することが主な目的です。創業者個人が直接保有している自社株の一部を、資産管理会社に移転して保有させます。

会社形態の選択

資産管理会社は株式会社または合同会社として設立するのが一般的です。

  • 合同会社:設立費用が安い(約10〜15万円)・役員任期なし・手続きが簡易。対外的な信用度はやや低い
  • 株式会社:設立費用が高い(約25〜35万円)・社会的信用度が高い・登記事項が公開される

IPO文脈では、定款で議決権・財産権を柔軟に設計できる合同会社が選ばれることも多いですが、VC等との調整で株式会社が適切な場合もあります。

3. 資産管理会社を設立する目的と税務メリット

メリット内容
相続税の大幅軽減個人保有の上場株は時価がそのまま相続財産になるが、資産管理会社経由にすると「非上場株式の評価(純資産価額方式)」となり、含み益の37%相当を控除した評価額になるため大幅な評価減が期待できる。(将来において税制改正される可能性はあります)
配当の税負担軽減個人が配当を受け取ると最大55%課税。法人(資産管理会社)が受け取ると、持株比率1/3超なら「受取配当等の益金不算入」で法人税がほぼゼロになる。
ミニマムタックスの回避・軽減(2027年〜)2027年以降、個人保有株の売却に対するミニマムタックスで実効税率が最大35.63%に上昇。法人保有なら実効税率23〜34%程度にとどまり、差が生じる。
株式の分散防止相続時に株式が複数の相続人に分散するのを防ぐ。「資産管理会社の株式」として一括承継し、経営の安定を維持できる。相続人が多い場合に有効です。
将来の納税資金の確保法人内に資金を蓄積し、役員報酬として少しずつ家族に分散することで、相続税の納税資金を計画的に準備できる。

相続税の具体的な節税効果(数値例)

たとえば上場後の株式時価が100億円の場合、個人保有と資産管理会社経由の相続税を比較すると以下のような差が生じます。

相続税の節税効果イメージ(試算)
個人保有の場合:100億円 × 55%(最高税率付近) ≒ 約55億円の相続税

資産管理会社経由の場合:純資産価額方式(含み益の37%控除)→ 約35億円の相続税(試算)

▶ 差額:約20億円の節税効果(個別状況により大きく異なります)

上記はあくまで上場後に死亡した場合の概算です。実際の相続税は被相続人・相続人の状況、株価の評価方法等によって大きく異なります。

4. 最重要:いつ設立・移転するのか?ステージ別比較

資産管理会社の効果を最大化するための最大のポイントは「株価が低いうちに動く」ことです。

移転タイミング100万株を移転した場合の 概算譲渡所得税(ケースバイケースですが)評価
創業直後〜シード (設立〜1年目)ほぼゼロ〜数百万円最適な場合があります
シリーズA〜B (調達後)数千万〜1億円程度事業が軌道に乗って、一番最適化も
シリーズC〜IPO直前 (N-2期以降)数億〜数十億円時価上昇によりコスト大・審査影響あり
IPO後(上場後)膨大(ミニマムタックスも発動)

N-2期(上場申請の直前々期)以降の株式売買は有価証券届出書への記載義務が生じます。主幹事証券・監査法人のチェックが入ります。

ステージ別の詳細解説

【シード〜シリーズA前:最適かもしれないけど、デメリットもあり

創業直後の段階では、株式の1株あたり価格(純資産価額方式による評価)が額面に近い水準(50〜100円程度)であることが多く、移転時の譲渡所得税がほぼゼロです。

ただし現実には「資金もない・時間もない・そもそも上場するかわからない」という心理が働き、このタイミングで資産管理会社を設立するケースはあまり多くありません。

デメリットがあるからです。資産管理会社を設立した以上、その後の維持管理コストがかかります。結果的に上場できなかった場合には、無駄なコストになってしまうのがデメリットです。

【シリーズA〜B:現実的なラストチャンス】

VCから数億〜数十億円のバリュエーションで資金調達が行われると、株価の基準が定まります。この段階でもIPO後と比べると株価は格段に低く、移転コストは現実的な範囲に収まります。

事業が軌道に乗ってきて、将来的な成長ストーリーが実現化する時期です。多くの税理士・弁護士がこのタイミングを「最後の現実的なチャンス」として提案します。資本政策の見直しと合わせて資産管理会社の設立を検討するのが実務上多いのかもしれません。

【シリーズC以降・N-3〜N-2期:コストと制約が増大】

株価が数千円〜数万円に達すると移転コストが膨大になります。さらにIPO審査を意識したN-2期以降は、株式の移転が有価証券届出書に記載される「大株主の異動」として開示されます。

移転を実施する場合は主幹事証券会社・監査法人・弁護士と事前に十分な調整が必要です。

5. 実際のスキーム例と概算コスト・節税効果

令和9年(2027年)ミニマムタックス改正を踏まえた試算

ミニマムタックスについてはこちらをご覧ください。

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2027年以降の制度改正を踏まえると、IPO後に個人保有で売却した場合のコストはさらに重くなります。

 個人保有のまま上場後に売却IPO前に資産管理会社に移転
前提:保有株を上場後100億円で売却
移転時の譲渡所得税なし(個人保有のまま)約9,500万円 (5億円で移転・概算取得費5%)
売却時の税負担 (2027年以降・ミニマムタックス含む)所得税22.5%+追加MT+住民税 ≒ 35.63% → 35.6億円法人税実効税率 約23.2% → 約23.2億円 (個人引出し前の法人段階)
税負担の差(概算)法人段階で約12億円の節税 (引き出し時の課税は別途)

上記試算は所得税のみで復興特別所得税・住民税・所得控除を省略した概算です。法人の手取りは法人内留保であり、個人への引き出し時にさらに課税されます(課税の繰り延べ)。

資産管理会社スキームは「完全な節税」ではなく「課税の繰り延べ」です。最終的に個人が引き出す際(役員報酬・配当・清算時)には課税されます。長期的な資産承継プランと組み合わせて設計することが重要です。

6. 創業者本人 vs 子・後継者が株主:どちらが有利か

資産管理会社の株主を「創業者本人にするか」「子(後継者)にするか」も質問の多いポイントです。相続人であるお子様や親族の状況によっても、それぞれでしょう。スキームと節税効果が異なります。

 創業者本人が株主のケース子・後継者が株主のケース
相続税の節税効果あり(評価減)より大きい(上場前の低い株価で子に移転)
設立・移転の手軽さ比較的シンプル子の出資・定款設計が必要
経営権の維持問題なし黄金株(拒否権付株式)を創業者が保持して対応(ただこのスキームは将来否認されるかもしれません)
将来の贈与・相続資産管理会社を後で子へすでに子が株主のため承継不要
複雑さ・リスクシンプルで税務リスク低い株主間贈与の税務問題に注意(定款設計が重要)

子が株主になる場合、株価がまだ低い段階で実質的に株式を子に移転できるため、将来の相続税対策として非常に有効です。ただし定款設計・無議決権株式の活用・贈与税リスクの検討など、専門家との丁寧な設計が必要です。

7. 留意しておきたいデメリット

注意点・デメリット内容
売却時は個人より不利資産管理会社が上場株を売却する場合、法人税実効税率(23〜34%)+配当時の所得税が二重にかかるため、純粋な売却益の手取りは個人保有より少なくなる。「保有・承継目的の株式」に限定すべき。
移転コスト(譲渡所得税)が発生個人から資産管理会社への株式移転時に「時価での売却」とみなされ、譲渡所得税(約20%)が発生する。株価が低い段階で移転するほどコストが少ない。
維持コストがかかる法人住民税の均等割(年7万円〜)、税理士費用(年50〜100万円程度)など固定コストが発生する。目安として年間の所得が1,000万円超の場合に費用対効果が見合いやすい。
④IPO審査・有価証券届出書への記載N-2期(申請直前々期)以降の株式売買は有価証券届出書への記載が必要。主幹事証券・監査法人への事前共有も必須。審査に影響する可能性があるためN-3期までの完了が望ましい。
⑤VC・株主間契約の制約VCが入っている場合、株式移転にはVC等からの事前承認が必要な条項(Transfer Restriction)が入っていることが多い。移転前に必ずSHA(株主間契約)を確認する。
流通株式比率への影響資産管理会社保有株は「流通株式」にカウントされない。グロース市場の流通株式比率基準(25%以上)を意識した保有設計が必要。

株価を意図的に低く評価して移転した場合、税務調査で重加算税(35%)が課されるリスクがあります。非上場株式の時価評価は財産評価基本通達に従い、必ず専門家が適正に算定する必要があります。

8. 資産管理会社設立・移転前のチェックリスト

設立前に確認すべき事項
□ VC等の事前承認が必要か(株主間契約に移転制限条項はないか)
□ 現在の株価水準での移転コスト(譲渡所得税)はいくらか試算したか
□ N期(申請期)から逆算して、N-3期以内に完了できるか
□ 主幹事証券会社・監査法人への事前共有は済んでいるか(N-2期以降)
□ 流通株式比率への影響は許容範囲内か(グロース市場:25%以上が基準)
□ 資産管理会社の維持コスト(年間50〜100万円程度)を確保できるか
□ 株主を創業者本人にするか、子・後継者にするかを決めたか
□ 「売却予定の株式」と「保有・承継目的の株式」を区別しているか

9. 2027年ミニマムタックス改正:急いで動くべき理由

2025年12月に公表された2026年度税制改正大綱では、ミニマムタックス(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化)が大幅に強化されます。

ミニマムタックスの改正ポイント(令和9年・2027年分〜)

特別控除額:3.3億円 → 1.65億円(▼半減)
最低税率:22.5% → 30%(▲引き上げ)

課税開始目安(金融所得のみ):約10億円 → 約3.3億円(▼大幅引き下げ)

株式譲渡所得の最高税率(復興税・住民税込み):約27.5% → 約35.63%

この改正により、IPO後に個人保有で株式を売却した場合の税負担が大幅に増加します。特に「3.3億円超」という新しい閾値は、中規模なIPOでも十分に射程圏内に入ります。

2026年中(令和8年中)に株式移転を完了させれば、令和9年改正前の税制が適用されます。IPOを目指している経営者にとって、2026年は「資産管理会社スキームを完成させるための実質的なラストイヤー」といえます。

2026年中に株式譲渡契約を締結すれば、2026年の所得として改正前の税制で申告できます(所得税の特例)。M&Aや資産管理会社への移転を検討している方は、2026年12月末を強く意識してください。

プロビタス税理士法人のお客様には、IPOを目指すベンチャー企業のお客様が多くいらっしゃいます。お客様には順次2026年4月以降順次お客様にご案内をしています。

10. よくあるご質問

:VCから「資産管理会社への移転は認められない」と言われました。

A:株主間契約の内容によります。多くの場合、VC等は「投資家保護」の観点から一定の制限を設けていますが、相続対策を目的とした親族・資産管理会社への移転については例外規定がある場合も多いです。弁護士と確認し、必要であれば交渉を検討してください。

Q:資産管理会社の株主は自分にすべきか、子供にすべきか迷っています。

A:最大の節税効果を狙うなら「株価が低い段階で子供が株主の資産管理会社を作る」のが理想です。ただし定款設計・贈与税リスク・議決権設計(黄金株の活用)など検討事項が多く、専門家との丁寧な設計が必要です。まずは本人が株主のシンプルな構造から始め、段階的に移行する方法をお勧めしています。

Q:資産管理会社の維持費はどのくらいかかりますか?

A:法人住民税の均等割(年約7万円〜)、税理士顧問料(年50〜100万円程度)が主なコストです。活動実態がほぼない場合でも年間50〜100万円程度の維持費を見込んでください。年間の節税効果がこれを上回るかどうかの試算が重要です。

Q:IPO審査に影響しますか?

A:N-2期以降の株式売買は有価証券届出書に記載が必要です。主幹事証券会社や監査法人への事前共有・了解取得が必要になります。N-3期までに完了しておけば審査上の影響は基本的に限定的と聞いています。

記事は2026年4月時点の情報に基づいています。税制は改正される場合がありますので、最新情報は国税庁または専門家にご確認ください。

本記事の試算・数値はあくまで概算であり、個別の税務アドバイスではありません。実際の判断は必ず専門家にご相談ください。

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