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外資系企業なら外国法人日本支店は絶対に選択すべきではない税金上の理由

海外の企業の日本進出について解説。日本支店が良いのか子会社が良いのか。国際税務のことなら、プロビタス税理士法人。外資系企業100社以上の実績。インバウンド/アウトバウンドや外国人の確定申告に強み。専門家による安心の国際税務。
目次

海外の企業が日本に進出してくる際の相談を受けることがあります。

その際に、支店形態で進出したいという依頼を受けることもあります。それ自体は違法でも何でもありませんが、税理士の立場からすると外国法人日本支店というのは全くメリットがありません。

できればやりたくないというのが本音です。過去20件ほどの外国法人日本支店の税務調査に対応してきた税理士が、なぜ外国法人日本支店はよくないか?ということを解説いたします。

はじめに

日本への進出形態は、基本的に下記の三つの形態が考えられます。

  • 駐在員事務所
  • 外国法人の日本支店
  • 子会社

主に、日本における営業活動の必要性と、重要な意思決定をどの程度まで日本拠点に委託するのかにより、形態を決める場合が多いです。ただ個人的には外国法人の日本支店にするメリットよりデメリットのほうがはるかに大きく、子会社形態を強くお勧めしています。

課税の範囲

これからはあくまで日本の税法の観点から見た解説になります。

そして、物理的な事務所などの恒久的施設(Permanent Establishment PEと言います)がある外国法人を前提とします。

日本の税法上、外国法人日本支店の課税の範囲は、PE帰属所得とされています。

過去は、総合主義で国内源泉所得が課税の範囲でしたが、PE帰属所得は、PEが本店等から分離・独立 した企業であると擬制した場合に当該PEに 帰せられる所得とする。
なんのことかわからないですね(笑)

我々のような専門家でも、本当にわからないです。過去は国内源泉所得でしたので、物理的に日本国内という場所を意識すればよかったところ、PEに帰属という概念的な定義になったので、線引きが本当に難しくなってしまいました。

しかし確定申告については、PE帰属所得を申告しなければならなくなりました。よくわからないものが申告対象になったということで、それだけで大きな税務リスクです。

外国法人とは?

外国法人とは、内国法人以外の法人のことで、国内に本店も主たる事務所も有しない法人のことをいいます。
内国法人とは、国内に本店または主たる事務所を有する法人のことをいいますので、例えば、外国法人の子会社で日本に設立された外資系法人は、内国法人ということになります。

なお外国法人の場合、日本国内に役員が存在する必要はありません。日本支店に役員報酬が生じない場合も多いです。

外国法人の文書化の義務

外国法人日本支店は、平成28年4月1日以降開始事業年度から、税務上、海外取引に係る文書化が義務とされました。平成26年度税制改正において導入されたPE帰属所得は、PEの果たす機能や事実関係の分析によって算定されます。この機能・事実分析を検証するための資料として文書化が義務付けられました。

したがって外国法人日本支店は確定申告書を出すだけでは足りず、海外取引に係る文書を作成する義務があります。規模の大小を問わずに作らなければならない書類もありますので、小さな外国法人日本支店にとっては、非常に負担が大きいのではないかと想像します。

帳簿作成

もともと外国法人の記帳代行は難しかったです。本支店会計がわかる人間でないと正確な記帳代行はできませんでした。簿記2級レベルの方ではできなかったわけです。

特に本店配賦経費などは外国法人日本支店特有の経費であり、処理に慣れていないと適切な対応ができません。

加えて、今後はPE帰属所得を算出しなければならないということで、従来は内部取引としていたものについても、第三者取引だと擬制して記帳する必要が出てきました。本支店会計ができることはもちろんのこと、会社の実態も理解するスキルも求められます。Bookkeeperに求められるスキルレベルがかなり高度になっている印象です。

本国の決算書の開示義務がある

上記の(2)のPE帰属所得に関連しますが、本店の状況も適切に把握しないとPE帰属所得は計算することができません。従来でも下記に記載する交際費の限度額計算などもあって、本店の決算書の純資産の部だけは法人税申告書に添付していました。

ただ今後は税務調査の場では、本店の決算書すべての開示は求められると思います。海外の経営者は、日本の税務当局に自分の決算書を開示するのを嫌がるものですが、仕方がないですね。

外国法人の源泉徴収義務

外国法人が国内で一定の支払いを受ける場合、内国法人への支払いと比べて広範な支払いについて、支払者に源泉徴収義務が課されます。

しかし、日本に恒久的施設を有している外国法人が源泉免除証明書という書類を支払者に提示した場合、一部の支払いについては源泉徴収の免除を受けることが可能になります。

泉免除証明書の交付により源泉徴収が免除されるものは以下の通りです。

  • 国内における人的役務の提供
  • 不動産、船舶又は航空機の賃料
  • 貸付金の利子
  • 使用料及び無形資産の譲渡対価

実務上の注意点ですが、源泉免除証明書には有効期間が設定されています。

そのため、一度交付を受けた後も証明書の定期的な更新が必要です。その更新を忘れてしまうということがあり得ます。忘れてしまうと、取引先である内国法人や不動産の大家さんが、源泉徴収漏れということになり、大きな迷惑をかけてしまうことになります。

実は税負担が大きいかも

よくコンサルの方が作成した資料で”外国法人日本支店のほうが子会社形態より税負担が小さい”という資料を見ることがあります。しかしそれは、課税の範囲が同じという前提です。

上で説明した通り、外国法人日本支店と子会社は課税の範囲が違います。確かに子会社形態の課税の範囲は全世界所得課税ですが、実務上はコストプラスにより結果的に国内源泉所得になっていることが多いです。場合によっては外国法人日本支店のほうが大きくなるケースもあります。

明らかに税負担が大きくなるのは均等割と外形標準課税です。これは本店の資本金で判定しますので、子会社形態よりも負担は大きくなることが多いです。

また法人税でいえば、交際費や寄付金の限度額の計算も外国法人日本支店特有の計算方法がありますので留意ください。

消費税の納税義務も特殊

外国法人日本支店の消費税の納税義務の判定は、特殊なので注意が必要です。詳細は、外国法人に対する法第12条の2第1項の適用の有無をご参照ください。

絶対に間違えてはいけないところですが、やったことがないと絶対に間違えると思います(笑)

あと納税義務以外にも特殊な話があります。外国法人日本支店でも、移転価格の観点からコストプラスにより売上を計算していることもあるかと思います。

それ自体はおかしなことではなく、そのコストプラス売上自体はPE帰属所得として申告すべきです。ただ消費税の納税義務の判定にあたっては、そのコストプラス売上は内部取引として処理されて、免税売上とはしないというのが東京国税局の内部的な指針だそうです。

私も経験がありまして、裁判しようと思ったのですが、お客様に”まぁ仕方がないよ”ということで諦めました。いまだにわだかまりがあって納得していません。

税務調査が多い

外国法人の数は、日本の会社の総数の0.1%以下なんだそうです。しかしその外国法人日本支店を管轄しているのは、国税局の外国法人調査部です。普通の内国法人であれば税務署の管轄ですが、外国法人日本支店は国税局の管轄になります。

税務署の職員数と内国法人の数、および国税局の職員数と外国法人日本支店の数は、実はすごくアンバランスです。外国法人日本支店は内国法人と比べて明らかに税務調査が多いです。税理士としてはありがたいのかもしれませんが、できれば税務調査は避けたいですね。

全体的に不慣れ

世の中的に外国法人日本支店はそれほど知名度がありません。なので信用度が高くない場合もあります。弊社のお客様でもありましたが、外国法人日本支店だと事務所が借りられなかったことがありました。

もちろん上で書いた源泉徴収の問題もあったのかもしれませんが、信用度がなかったからだと聞いています。子会社形態であれば何の問題もなかったのに、外国法人日本支店を選択したばかりに思っていた事務所が借りられなかったというのは残念ですね。

またすべての法律が外国法人日本支店を意識されているわけではありません。時々モレがあります。例えば2020年のコロナ騒動の時に、広く実施された持続化給付金ですが、外国法人はその対象外となりました。

外国法人日本支店と子会社形態が必ず公平に扱われるわけではないということは理解しておいたほうがいいと思います。

それでも外国法人日本支店がいい場合

個人的には外国法人日本支店はメリットがほぼないと思っています。

ただ外国法人日本支店しか選択がない場合もあります。たとえば海外の銀行はほとんど外国法人日本支店です。

これは銀行法で子会社形態であれば多額の資本金を計上することが求められているからです。そのような資本金が用意できないので、多くの海外の銀行は日本支店形態を採用しています。

あと、当面はずっと赤字であることが見込まれている場合は、本店がある国の税負担が小さくなりますので、確かに外国法人日本支店のほうがいいかもしれません。ただずっと赤字であることの経済的合理性は、税務当局から求められると思います。

最後に、日本国内で代表取締役を選べないから外国法人日本支店にしたという話も聞きます。

日本においてはnominee directorの制度を提供している会計事務所もあると思いますので、そのようなアウトソーシングのサービスを使われればよろしいかと思います。

もし海外の企業が日本に進出する際に、外国法人日本支店がいいのか、外資系企業のような子会社形態がいいのか検討されているようであればお気軽にお問い合わせください!

ご覧になっていただきありがとうございました。

この記事の執筆者

片山 康史

税理士 / 中小企業診断士

プロビタス税理士法人代表。 「自分の知識と経験で皆を幸せに」をモットーに、税務の問題を解決する情報を発信しています。外資系企業向けの国際税務が得意です。