質問
シンガポール法人が、日本国内に100%出資している日本法人を有しています。組織再編に伴って、そのシンガポール法人が別のシンガポール法人に株式を売却することになりました。その際に注意することはありますか?(あくまで法人税法の観点に限ります。外為法などの観点は除きます。)
<原則的な考え方>
株式の売却に関しては、原則的には、その売却者の居住地国での申告が必要です。そして、その株式の法人が所在する国での申告は不要です。
例えば、日本人の方(アメリカの非居住者)が、NASDAQに上場しているApple社の株式を売却したとします。
売却益(キャピタルゲイン)が100円発生しました。
その場合、そのキャピタルゲインは日本で申告が必要です。100円に対して、約20%の税率で日本の税金が発生します。アメリカでの申告は不要です。(市民権やグリーンカード所有者は除く)
<例外的な考え方>
上記の原則的な考え方を悪用した租税回避が考えられます。
例えば不動産は、その不動産の所在地国での申告・課税が必要です。その不動産の所在地国で、キャピタルゲインを申告したくないと考えます。
では不動産を法人に移管して、そしてその法人の株式を売却したら、所在地国での申告不要になるのか?
そんなことを過去の人たちは考えました。そこで不動産化体株式という制度があります。不動産に化けた株式は、不動産と一緒と考えて、その不動産の所在地国で課税するよと言う制度です。おもに租税条約で規定されています。
<例外的な考え方 事業場譲渡類似株式>
上記の不動産化体株式と同じ考え方で、事業譲渡類似株式という制度もあります。
事業譲渡類似株式も、原則的な考え方にかかわらず、実態として事業を売却しているのと同じであれば、その事業の所在地国で申告・課税をするよという制度です。
<日本の制度>
日本の法人税で事業譲渡類似株式が定められています。法人税法施行令178条(国内にある資産の譲渡による生ずる所得)が該当します。(不動産化体株式も同じ条文です)
1.譲渡事業年度終了の日以前3年内のいずれかの時において、内国法人の特殊関係株主等がその内国法人の発行済株式等の総数の25%以上に相当する数の株式等を所有していたこと。
2.譲渡事業年度において、内国法人の特殊関係株主等が最初にその内国法人の株式等の譲渡をする直前のその内国法人の発行済株式等の総数5% 以上に相当する数の株式等の譲渡をしたこと。
<租税条約 日本-シンガポール租税条約>
国際税務の世界においては、日本の法律で定められていたとしても、租税条約で別の制度が定められていたとすると、租税条約の方が優先されます。プリザベーションクローズ(優先条項)と言います。
ではシンガポールとの租税条約を見てみると、13条の4で以下のように定められています。
1.当該譲渡者が保有し又は所有する株式(当該譲渡者の特殊関係者が保有し又は所有する株式で当該譲渡者が保有し又は所有するものと合算されるものを含む。)の数が、当該課税年度中又は当該 賦課年度に係る基準期間中のいかなる時点においても当該法人の株式の総数の少なくとも25%であること。
2.当該譲渡者及びその特殊関係者が当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中に譲渡した株式の総数が、当該法人の株式の総数の少なくとも5%であること。
<要はどういうこと?>
日本法人の25%以上の株式を有しているシンガポール親法人が、日本法人の株式を5%以上売却した場合、それは日本で申告してください、ということになります。
PEのない外国法人として法人税の申告をすることになります。納税管理人の選任が必要になります。
なおシンガポール法人はほぼ12月決算と聞いていますが、そうであれば事 業年度の末日から2ヵ月以内、すなわち翌年2月末 が確定申告の期限になります。
具体例を解説
朝日新聞で以下の記事が出ました。
モナコは所得税ないけど 海外在住者、株売却益33億円無申告で追徴
https://www.asahi.com/articles/ASS7M3C9JS7MUTIL017M.html
まさに事業譲渡類似株式の事例です。
私の記事は法人向けの記事で、本件は個人の方ですが、個人の方にも適用があります。出国税(海外転出時課税制度)開始直前に出国したのですが、出国した国が悪くて、事業譲渡類似株式の課税を食らってしまった、という事例です。
もしご不明な点等ございましたら、プロビタス税理士法人にお気軽にお問い合わせください。