はじめに
近年のグローバルなビジネスモデルの構造変化により、各国の税制と活動実態のズレを利用した課税回避行為が問題になっています。経済的な実体のない軽課税国に法人を設置し、その法人からインターネットを介したデジタル取引を行い、でもその所得をその法人では申告せず、軽課税国にて課税されるということです。このような問題はBEPS(ベップス Base Erosion and Profit Shifting(税源浸食と利益移転の問題))と呼ばれています。
そのBEPS問題に取り組むために、先進国が加盟しているOECD(経済協力開発機構)にてBEPSの対策が検討されてきて、国際的な合意を得ました。
その国際合意は、「市場国への新たな課税権の配分」(第一の柱)と「グローバル・ミニマム課税」(第二の柱)とされています。
その第二の柱は以下の3つの分解されます。
- 所得合算ルール(IIR Income Inclusion Rule)
- 軽課税所得ルール
- 国内ミニマム課税
令和5年度の税制改正ではこのうちの①IIRについて法制化されました。残りの2つについては、今後法制化される予定です(令和6年末時点)。
対象企業
グローバルミニマム課税の対象となるのは、法律用語では「特定多国籍企業グループ等」とされています。
「多国籍企業グループ」というのは、文字通り、複数の国に展開している企業グループです。海外に子会社があったり、親会社が海外である日本法人はすべてが対象です。
そのうち、「特定」というのは、”対象会計年度の直前の4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度の総収入金額(つまり売上)が7億5000万ユーロ以上であること”などが要件とされています。
令和6年末時点では1ユーロは160円程度ですから、日本円に直すと1200億円になります。ただ連結上の売上で判断するのであり、内部取引は含みませんのでご注意ください。
外資系企業への影響
ピラー2のグローバルミニマム課税のIIR(所得合算ルール)は日本企業が対象です。
プロビタス税理士法人の顧問先で、年間グループ売上が1200億円を超えている日本企業はありません。残念ながら。
ピラー2のグローバルミニマム課税のIIR(所得合算ルール)は複雑であり、実務上は弊社のような中小会計事務所には縁がないと思います。
ただし本制度創設にあたり、特定多国籍企業グループ等報告事項等の提供制度も創設されました。この制度は、日本で活動している外資系企業に影響が及びます。
この報告制度は、特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等のうち、日本の内国法人が、グローバルミニマム課税の報告義務があるというものです。期限は対象会計年度終了の日の翌日から1年3か月以内で、税務署にe-taxにより提供することになっています。ただし初回だけについては、期限が延長されまして、対象会計年度終了の日の翌日から1年6か月以内です。
なお、内国法人が複数ある場合もあるかと思いますが、その場合には代表する1社がまとめて報告すればよいことになっています。国内代表による情報提供と言います。
ちなみに、お客様に説明した際に質問を受けた経験があるのですが、この報告制度については適用除外はありません。グローバルミニマム課税のIIRについては、一定の要件を満たすと適用除外(いわゆる適用除外基準:デミニマス)がありますが、この報告制度については適用除外はありませんのでご注意ください。年間グループ売り上げが7億5000万円ユーロ以上であれば、必ず適用があります。
ただし実際には必要以上に心配する必要はないかも
確かに報告義務はありますが、適用除外ルールがあります。
海外の親会社などが、その親会社がある国の税務当局に、特定多国籍企業グループ等を代表して情報提供(国際代表による情報提供)を行い、その国の税務当局が日本の税務当局に対して情報提供を行うことができると認められる場合には、その子会社は報告義務がありません(法人税法150の3③)
なおこの場合には、申告期限までに最終親会社に関する一定の情報(最終親会社等届出事項)をe-taxにより提出する必要はあります。
“その国の税務当局が日本の税務当局に対して情報提供を行うことができると認められる場合”については、不透明ですが、ただ、グローバルミニマム課税の対象になるのはほとんどが欧米企業でしょうから、租税条約等を通じて各国の税務当局と日本の国税庁間での情報提供は全く問題ないのでは、と個人的には想像しています。
なぜ心配する必要がないと思っているかというと、移転価格税制の文書化の中で、最終親会社等届出事項があります。その提出義務と今回のグローバルミニマム課税の報告義務の要件はほぼ一緒です。かつ記載事項もほぼ同じようです。したがって、過去から最終親会社等届出書を提出している外資系企業は、ほぼ同じ内容で提出すればよいことになります。ちなみに最終親会社等届出事項に関する国税庁のサイトは以下の通りです。
かつ当然に親会社への説明も必要ですが、親会社の担当者の方がピラー2について詳しいケースがほとんどでした。なぜなら、全く同じ制度が全世界の先進国で導入されているからです。先日、パリに行って、弁護士会計士のAnnual conferenceに参加してきましたが、グローバルミニマム課税の対象国となる欧米の会計士はみんなピラー2について熟知していて、本当に驚きました。日本ではまだ認知が進んでいないようですが、海外ではすでに認知が進んでいるようです。日本の代表として本当に恥ずかしいと思ったのを強く覚えています。
いつから適用?
所得合算ルールと情報申告制度は、2024(令和6)年4月1日以降に開始する対象会計年度(最終親会社等が作成する連結財務諸表の会計年度)から適用が開始されます。
もし外資系企業の税務に興味をお持ちでしたら、お気軽にプロビタス税理士法人にお問い合わせください。