(チェックシート付)外資系企業の日本法人は要確認: 関連者間取引の書類保存特例の実務対応

目次

1. 制度の概要

令和8年度税制改正(2026年4月1日以後開始事業年度から施行)により、内国法人が関連者との間で特定の取引を行う場合、その取引内容と対価の計算根拠を明らかにする書類を確定申告書の提出期限までに作成・保存することが義務付けられました。

根拠法令は法人税法施行規則第59条の2および第67条の2です。移転価格税制(租税特別措置法66条の4)とは別の制度です。

制度の基本構造 義務者:内国法人(青色申告法人・普通法人等) 対象取引:関連者との間で行う工業所有権等の譲渡・貸付けや役務提供 義務の内容:契約書等に特定事項の記載がない場合、特定事項記載書類を取得・作成し保存 期限:確定申告書の提出期限まで(申告期限から7年間保存) 不備の場合:青色申告の承認取消し事由に該当

2. 移転価格文書化との違い:小規模子会社も対象になる

この特例を理解するうえで、移転価格文書化の対象要件と比較することが重要です。

移転価格文書化の対象要件(参考:国税庁)

移転価格のローカルファイル作成義務は、以下の要件をすべて満たす大規模グループに限定されています(国税庁「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」)。

移転価格文書化(ローカルファイル)の対象要件 企業グループの連結売上高が 1,000億円以上、
かつ
① 国外関連取引の合計金額(前事業年度)が 50億円以上、
または ② 無形資産取引の合計金額(前事業年度)が 3億円以上
※ 参照:
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/h28iten-kakaku.pdf
移転価格文書化(既存)関連者間取引書類保存(新設)
根拠法:措法66条の4 グループ連結売上1,000億円以上の大規模グループが対象
国外関連取引50億円以上
または 無形資産取引3億円以上
→ 多くの中小規模の外資系子会社は対象外
根拠法:法規59条の2・67条の2
内国法人すべて(規模要件なし)
外国法人も「関連者」に含まれる
→ 小規模な外資系子会社も対象になる

「うちはグループ売上が1,000億円に満たないから移転価格は関係ない」と思っていた外資系子会社も、この新制度の対象になります。これが本制度の最も重要なポイントです。

3. 対象となる取引の種類

取引の種類外資系企業での具体例対象
工業所有権等の譲渡・貸付けブランド・商標・特許のライセンス(ロイヤリティ)対象
経営管理・指導の役務提供経営指導料・マネジメントフィー(Management Fee)対象
研究開発の委託・情報提供R&Dコスト分担(コストシェアリング)対象
システム・情報処理の提供グループ共通システム・ITインフラの利用料対象
バックオフィス業務の支援経理・人事・法務等のシェアードサービス費用対象
コンサルタントの役務提供グループ内コンサルタントへの委託費用対象
通常の売買取引(商品仕入等)親会社からの商品仕入れ対象

4. 何を用意すれば良いか:実は難しくない

この制度を聞いて身構える方もいるかもしれませんが、多くの会社はすでに必要な書類を持っています。追加で整備が必要なケースも、複雑な計算や分析は不要です。

基本的な考え方:

「請求の根拠を残しておけば良い」

求められているのは「独立企業間価格の妥当性の証明」(移転価格文書化)ではなく、取引内容と金額の算定根拠がわかる書類です。税務調査官が「なぜこの金額なのか」を聞いてきたときに、即座に答えられる状態にしておくことが目標です。

取引類型別の書類の例

【コストプラス方式の取引(例:製造委託・シェアードサービス)】

コストプラス契約書 + 実際のコストの明細・請求根拠

→ コストがいくらで、そこに何%を上乗せしているかが確認できれば十分

【コンサルタント・専門家の役務提供】

担当者のタイムチャージレート × 稼働時間の記録

→ 誰が、何時間、何の仕事をしたかの記録(タイムシート等)があれば十分

【Management Fee(経営管理費)】

費用の請求計算過程を示す書類 → 売上高比率・従業員数比率・使用面積比率など、配賦基準とその計算根拠

【ロイヤリティ・ライセンス料】

ライセンス契約書 + 料率の根拠(売上高の何%等) → 契約書に料率が明記されていれば、原則として追加書類は不要

書類の保存場所

原則として内国法人の納税地での保存が必要ですが、税務調査官の求めに応じて親会社から遅滞なく(イメージとしては1週間以内)入手・提示できる体制が整っていれば、本社側での保管も許容されるでしょう。

「いざとなれば本社から取り寄せられる」という状況でも、実際に取り寄せるまでに時間がかかるケースがあります。どの書類がどこにあるか、誰に連絡すれば出てくるかを、平時から把握しておくことをお勧めします。

5. 書類がない場合のリスク:青色申告取消し

この特例の違反リスクが「追徴課税」ではなく「青色申告の取消し」である点は重要です。

青色申告が取り消されると:

・欠損金の繰越控除が使えなくなる(最大10年分の損失控除が消滅)

・繰戻還付の適用不可 ・特別償却・税額控除等の各種優遇措置が使えなくなる

・取消しの翌期に再度青色申告の申請が必要(1年間は白色申告)

ただし、多くの会社はすでに請求書・契約書・タイムシートなどの形で必要な根拠書類を保持しています。過度に心配する必要はありませんが、「税務調査でその場で説明できる」という状態を確認しておくことが大切です。

6. 日本支店(PE)の扱い:対象外だが別の義務あり

エンティティの種類この特例の適用適用される文書化制度
外資系企業の日本法人(内国法人)適用あり法規59条の2・67条の2(本制度)
外国法人の日本支店(PE)適用なし法法146の2・法規62の2に基づく別の文書化義務

7. 実務対応チェックリスト

 確認事項
外国親会社・グループ会社から受けている役務(経営指導・システム・R&D等)をリストアップする
各取引について、契約書・請求書に役務の内容明細と金額の計算根拠が記載されているか確認する
コストプラス取引:コスト明細と上乗せ率の根拠書類を確認する
コンサルタント費用:タイムチャージレートと稼働時間の記録を確認する
Management Fee:配賦基準(売上高比率・人員比率等)と計算過程を確認する
書類が本社側に保管されている場合、税務調査時に速やかに入手できる連絡体制を確認する

8. よくあるご質問

Q:うちはグループ売上が1,000億円未満なので移転価格文書化は不要と聞いています。この特例も関係ないですか?

A:関係あります。移転価格文書化(ローカルファイル)は大規模グループに限定されていますが、この新制度には規模要件がありません。外国親会社との役務取引がある内国法人であれば、規模に関わらず対象になります。ただし実務的な対応は比較的シンプルです。

Q:外国親会社から「月額〇〇円の経営指導料」として請求書をもらっています。これだけでは不十分ですか?

A:金額だけでは不十分な場合があります。「月あたり〇時間のサポート、時間単価〇〇ドル」という内容が請求書に記載されていれば、それで足りるかもしれません。具体的な役務内容と金額の根拠が確認できる書類を用意してください。

Q:移転価格のローカルファイルを作成していれば、この特例の書類は兼用できますか?

A:ローカルファイルに含まれる取引の明細や計算根拠の部分は、この特例の要件を満たすことがあります。完全に兼用できるとは限りませんが、ローカルファイルを作成している会社はこの特例への対応も比較的容易です。

Q:12月決算の会社ですが、いつの事業年度から対象になりますか?

A:2026年4月1日以後に開始する事業年度からです。12月決算の会社であれば、2027年1月〜12月の事業年度(申告期限:2027年3月末)が最初の対象年度になります。今から書類の整備状況を確認しておくことをお勧めします。

9. プロビタス税理士法人にご相談ください

「うちの会社の取引で、どの書類が足りているか確認したい」「税務調査でどう説明すればいいか相談したい」という方はお気軽にご相談ください。

  • 既存の契約書・請求書の特定事項充足確認
  • 不足している書類の特定と作成サポート
  • 移転価格文書化との整合性確認
  • 本社ファイナンスチームへの英語での説明サポート
  • 税務調査時の対応アドバイス

本記事は税務通信3901号(2026年5月25日)および令和8年度税制改正の内容に基づいています。制度の詳細は今後の通達・指針によって明らかになる部分があります。最新情報は専門家にご確認ください。

移転価格文書化の対象要件の出典:国税庁「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(平成28年6月)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/h28iten-kakaku.pdf

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