海外子会社への従業員出向は、グローバル展開を進める日本企業にとって大事な戦略です。しかし、それに伴う給与計算、特に「給与較差補填金」の税務上の取り扱いは、経理担当者様を悩ませるポイントの一つではないでしょうか。
法人税基本通達9-2-47に規定されているこの制度は、内容があいまいで理解しにくく、税務調査で指摘を受けやすい論点でもあります。「過大な給与較差補填金」と判断されてしまえば、損金不算入となり、追徴課税のリスクが生じます。
この記事では、給与較差補填金の基本的な考え方から、税務調査で問題とならないための準備まで、経理担当者のために詳しく解説していきます。
1. 給与較差補填金とは?なぜ必要なのか?
まず、給与較差補填金がなぜ海外出向において必要とされるのかを理解しましょう。
給与較差補填金とは、海外子会社へ出向した従業員が、出向先の国での生活費(物価、住居費など)や税金の違いによって、日本にいる場合と同等の生活水準を維持できるように、日本の親会社が追加で支給する手当のことです。
海外出向者は、日本の給与と出向先の給与の二重構造になることが多く、さらに海外での税金や社会保険料の負担、物価の違いなど、日本国内では発生しない様々な費用が発生します。これらの経済的な不利益を補填し、出向者のモチベーション維持や、スムーズな海外勤務を実現するために、この補填金が支給されます。
2. 税務調査でここが見られる!過大と判断されないためのポイント
給与較差補填金は、税務調査において必ずと言っていいほどチェックされる項目です。特に「過大」と判断されないために、以下の点について徹底的に準備しておく必要があります。
2-1. 合理的な算定基準の明確化
最も重要なのは、給与較差補填金の金額がどのように計算されているかを明確にし、その算定基準が合理的であることを説明できることです。
- 物価較差の考慮: 出向先の国の物価水準と日本の物価水準を比較し、その差をどのように給与に反映させているか。信頼性のある第三者機関(例:JETRO、コンサルティングファームのデータなど)の物価指数データを利用するのが効果的です。
- 税金較差の考慮: 日本と出向先の国での所得税、社会保障費などの税負担の違いをどのように補填しているか。
- 住居費の考慮: 出向先の住居費が日本よりも高額な場合、その差額をどのように補填しているか。
- その他手当の考慮: 危険地域手当、子女教育手当、帯同家族手当など、必要に応じた手当が明確な基準に基づいて支給されているか。
2-2. 客観的証拠資料の整備
算定基準だけでなく、その計算を裏付ける客観的な証拠資料を整備しておくことが不可欠です。
- 社内規定・規程の整備: 給与較差補填金の支給に関する明確な社内規定や就業規則を作成し、役員の承認を得ておくこと。これにより、支給の根拠が明確になります。
- 計算ワークシート・計算根拠: 実際に計算に使用したエクセルファイルや計算シート、参照した物価データ、税率表などの資料を保管しておくこと。
- 出向契約書: 親会社と出向者、および出向先子会社との間の出向契約書で、給与体系や補填金の支給に関する取り決めを明記しておくこと。
- 出向先の給与明細: 出向先子会社から支払われる「通常の給与」が明確にわかる資料を保管しておくこと。
2-3. 定期的な見直しと記録
海外の経済状況や税制は変動します。給与較差補填金の算定基準や金額を定期的に見直し、その見直しのプロセスと結果を記録しておくことが重要です。
- 例えば、毎年、各国の物価指数や為替レートの変動を考慮して、補填金を見直すプロセスを導入し、その議事録などを残しておくと良いでしょう。
3. まとめ:適正な管理で海外出向を強力にサポート
給与較差補填金は、海外出向者の生活を安定させ、海外事業の成功に貢献するための重要な制度です。その一方で、税務上のリスクも伴うため、経理担当者様は慎重かつ計画的な対応が求められます。
法人税基本通達9-2-47の意図を理解し、「合理的な算定基準」「客観的な証拠資料」「定期的な見直し」を徹底することで、税務調査での指摘リスクを最小限に抑えることができます。もしご不明な点や具体的なご相談がございましたら、プロビタス税理士法人にご相談ください。




