最初に 海外送金に税金はかかりますか?
よく聞かれる質問です。私が税理士になった当時(15年以上前でしょうか…)は「絶対に税金かかりません」と答えていました。(ただ最近はそうではありません。詳細は最後に記載しました。)
考えてみてください。当然です。
自分名義の銀行口座が2つあったとします。たとえば三井住友銀行とみずほ銀行としましょう。
国内の三井住友銀行から国内のみずほ銀行に送金したら、税金はかかりますでしょうか?
当然 「No!」です。
振込手数料が引かれて終わりでしょう。当たり前のことです。
(ちなみに海外送金手数料の消費税は対象外でゼロなので、インボイスは関係ないです)
自分名義の銀行口座間で資金移動しただけですので、税金がかかるわけではないのです。それは海外送金でも同じです。税金が安くなるわけもありません。還付されるわけもありません。
ではなぜ「海外送金は税金がかかりますか?」という質問がでるのでしょうか?
その理由の1つは、税務署が常に海外送金をチェックしていて、特定の海外送金に対してお尋ねを出しているからです。
なぜ税務署はお尋ねを出すのでしょうか?
海外送金をきっかけとして、申告漏れを把握したいと考えているからなのです。どのようなケースがあるのかを紹介しましょう。(なおウソはいけません。ウソなく正直に回答しましょう)
お尋ねのケース1 来日後の海外資産売却益
5年前に来日した日本国籍の方。海外に保有していた銀行口座から1000万円を送金したところ、税務署からお尋ねが来ました。なぜ税務署はお尋ねを出したのでしょうか?
日本国籍の方は、来日した後は居住者に分類されます。居住者は全世界所得課税(world wide income)です。
したがって、海外で売却した資産(株式や不動産)も、居住者であれば日本で確定申告が必要です。
税務署がお尋ねを出した理由は、「海外のキャピタルゲイン・売却益の申告が漏れていませんか?」です。
ただ来日前にご自身が稼いだ所得であれば、日本では申告義務がないものです。
堂々と「来日前に稼いだものです。日本での生活費として送金しました。」と書いて、税務署にお尋ねを返しましょう。
お尋ねのケース2 非永住者
2年前に来日したアメリカ国籍の方。海外に保有していた銀行口座から1000万円を送金したところ、税務署からお尋ねが来ました。なぜ税務署はお尋ねを出したのでしょうか?
2年前に来日したアメリカ国籍の方は、来日後5年間は非永住者に分類されます。
非永住者は、国内源泉所得(古い言い方ですが…domestic sourced income)のみが課税です。
ただし、送金課税という特殊な制度があります。
詳しくは以下をご参照ください。
「そのような送金課税の申告が漏れていませんか?」です。
送金課税の申告をしていなかった場合であっても、必ずしも送金課税が発生するとは限りません。
送金課税が発生しないのであれば、堂々と「送金課税は発生しません」と書いて、税務署にお尋ねを返しましょう。
ただ送金課税の判定はとても複雑です。詳細は国際税務に詳しい会計事務所に確認するべきだとは思います。
お尋ねのケース3 贈与
10年前に来日した中国国籍の方。海外に保有していたご両親の銀行口座から1000万円を送金したところ、税務署からお尋ねが来ました。なぜ税務署はお尋ねを出したのでしょうか?
贈与税ですが、一時居住者に該当した場合において、贈与した人が過去10年間において全く日本で住所がなかった時は、日本国内にある財産のみが贈与税の対象になります。
くわしくはこちらをご参照ください(英語ですが)
「一時居住者」とは、贈与の時において在留資格(出入国管理及び難民認定法別表第1の上欄の在留資格をいいます。以下同じです。)を有する人で、その贈与前15年以内に日本国内に住所を有していた期間の合計が10年以下である人をいいます。
海外の銀行にある資金を贈与した場合には、日本の贈与税の対象にはなりません。
ケース1や2のように”堂々と”返信すればよいと言いたいところですが、一時居住者の判定はとても曖昧です。もし悩まれるようであれば、お尋ねに返答する前に、国際税務に詳しい会計事務所に問い合わせした方が良いかもしれません。
お尋ねのケース3 贈与にならない その1
海外に単身赴任したサラリーマンの方。ご家族は日本で住んでます。海外から日本在住の家族のためにご自身の銀行口座から1000万円を送金したところ、税務署からお尋ねが来ました。
これは上記と違って贈与とはならないでしょう。理由は、国内にいる家族に生活費や教育費として海外送金する場合、それは贈与税の対象外だからです。
金額が大きいから贈与だ!と指摘されるかもしれませんが、なぜ多額の資金が必要だったか(例えばご子息が医学部に進学するなど)を説明すればよいと考えます。
お尋ねのケース3 贈与にならない その2
贈与にならないケース1は、海外から日本への海外送金でした。逆に日本から海外への海外送金です。
たとえば、ご子息が海外で留学しているケースです。
例えばお子さまの留学費用として、または国外居住親族に生活費として海外送金する場合は、「扶養対象」の費用となるため非課税ですから特に手続きは必要ありません。また、こうしたケースでは年末調整や確定申告の際に送金関係書類の明細書を提出することで「扶養控除等」の適用を受けることができるため、手続きをすることで逆にメリットがあります。
お尋ねのケース4 源泉徴収漏れ (会社のケース)
外資系企業日本子会社が、海外の親会社に1000万円を送金したところ、税務署からお尋ねが来ました
なぜ税務署はお尋ねを出したのでしょうか?
外資系企業日本子会社が、利子・配当・ロイヤリティなどを支払う場合、原則として源泉徴収が必要です。
しかし租税条約の適用により、その源泉徴収税率が減免されたり、あるいは源泉徴収がゼロになります。
ただ租税条約の届出書を提出していないとその適用がありません。
租税条約の届出書が提出されていないのに、利子・配当・ロイヤリティなどを支払った場合、お尋ねが来ます。
お尋ねのケース5 源泉徴収漏れ (個人のケース)
あまり多くありませんが、我々も1度経験があります。
賃貸不動産のケースです。
不動産オーナーに対して、賃料を支払ったあとに、お尋ねが来ました。
その不動産オーナーは海外居住でした。海外居住の不動産オーナーは、賃料の支払の際に源泉徴収が必要です。
詳しくはこちらをご参照ください。
税務署は、海外送金をどのように把握するのか?
内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「国外送金等調書法」という。)という法律があります。
簡単にいうと100万円以上の海外送金については、海外送金を担当した金融機関が税務署に報告しなければならないという制度です。
報告内容(支払調書といいます)には以下のことが記載されているようです。
<支払調書の事項>
・国外送金又は国外からの送金の受領の別
・国外送金者又は受領者の氏名又は名称
・国外の銀行等の営業所の名称
・取次金融機関の営業所の名称
・国外送金等にかかる相手国
・本人口座の種類・口座番号
・国外送金の金額
・外貨種類
・円換算額
・送金原因など
金融機関から税務署にすべての100万円以上の海外取引情報が提供されています。
お尋ねだけではない 税務調査の現場から
最近は税務調査対応していても、国外送金等調書法を税務当局が積極的に活用していることを肌身で感じます。
税務調査の対象者になったタイミングで、過去のすべての調書を確認されています。
調査対象の選定や、実際の税務調査で積極的に活用されているように感じます。
よく聞かれる質問
海外送金に関しては質問の内容も多岐にわたります。そのいくつかをご紹介しましょう。
100万円未満でバラバラと送金すればよかったのか?
国外送金等調書法の対象は100万円以上です。では100万円未満で、バラバラと送金すれば良かったのでしょうか?
答えは「恐らくNo」です。
たしかに100万円未満については調書は作成されません。バレにくくなるのは間違いないでしょう。しかし税務当局は、本気になれば、すべての銀行口座の明細を入手することが可能です。
租税条約を締結している国であれば、その相手方の銀行口座の情報も入手できます。
そもそも100万円以下の海外送金でも銀行は必ず送金目的を把握します。
我々もネット系銀行で海外送金を良く実施します。海外送金手数料が安いからですが、ネット系銀行でも送金目的は必須です。
税務署が銀行に聞けば、100万円未満の海外送金はすべて把握できるはずです。つまり税務署が本気になれば、100万円未満でバラバラを送金していたことは、容易に把握されてしまいます。把握されたら最後、「こいつは怪しい」となることは間違いありません。
税務署が本気になったときを考えれば、100万円未満バラバラ作戦は決してお勧めの方法ではありません。
よく聞かれる質問 PaypalやWiseについて
海外送金は大変複雑で、手間もかかります。Swiftコードって何よ、IBANコードって何よ、という感じです。
最近は新しいサービスが出てきて、PaypalやWiseはよく聞きます。
ただPaypalやWiseは税金の観点から見れば単なる手段であって、手段が違うからと言って税金が変わることは無いと考えます。
PaypalやWiseを使うことによって税金が安くなることはありません。
よく聞かれる質問 3000万円以下であれば大丈夫だと聞いたけど
よくある勘違いの一つです。外為法で、3000万円以上の海外送金については日銀への報告義務が義務付けられています。
これは「国外送金等調書法」とは全く別の法律です。税金とは全く関係がありません。
よく聞かれる質問 暗号資産を送付したらバレますか?
暗号資産や仮想通貨、たとえばビットコインなどは「国外送金等調書法」の対象外です。
なので、バレルかバレないかでいうと、バレないでしょう。
よく聞かれる質問 税務署にバレやすい国はありますか?
答えとしては、ありません。
中国や台湾、アメリカ、東南アジア(タイやシンガポール)などの送金に関して質問を受けることが多いですが、税金の観点でいうと一緒です。どの国が有利などはありません。
よく聞かれる質問 日本からの送金について
日本から送金した場合の相手国の取り扱いを聞かれることがあります。我々は日本の税理士なので、相手国の税務については残念ながらわかりません。
よく聞かれる質問 為替差損益について
昨今の円安傾向の中、為替差損益は本当に悩む問題の一つです。税務調査について論点になる経験も増えてきました。為替差損益については、以下に我々の考えをまとめています。
最後に
税務署からのお尋ねをきっかけにお問い合わせいただく機会が多いです。
ただ拝見すると、「恐れるに足らず」というケースも多いです。
たしかに税務署からのお問い合わせは不安に感じると思いますが、堂々と対応すべきです。
もし不安に思われることがあれば、お気軽にお問い合わせください。