1. はじめに:「NISA、売らないといけないの?」
海外赴任や海外移住が決まったとき、多くの方が最初に不安になるのが「日本のNISA口座はどうなるの?」という問題です。
結論から言うと、会社の転勤などによる海外赴任であれば、出国前に所定の手続きをすることで、NISAを解約・売却せずに継続保有できる可能性が高いです。ただし、証券会社によって対応に差があり、また「自己都合の海外移住」や「留学」では適用されないケースがあります。
2024〜2025年にかけて各社の対応が大きく変わりました。本記事では主要9社の最新の取り扱いをまとめ、出国税との関係も合わせて解説します。
| この記事でわかること ① 非居住者になった場合のNISAの法律上のルール(全証券会社共通) ② 主要9証券会社の取り扱い比較(SBI・楽天・野村・マネックス・松井・大和ほか) ③ 「自己都合の海外移住」「留学」の場合の落とし穴 ④ 有価証券が1億円以上ある場合の出国税(国外転出時課税) ⑤ 出国前にやるべきことチェックリスト |
2. 大前提:法律上のルール(全証券会社共通)
証券会社ごとの対応を見る前に、すべての証券会社に共通する法律上のルールを確認します。
■ 非居住者はNISAの新規買付ができない
NISA制度は「日本に居住する個人」の資産形成を支援するものです。非居住者になった時点で、新たなNISA対象商品の買付けは一切できなくなります。これは証券会社の方針ではなく、法律上の制限です。
■ 出国前に届出書を提出すれば継続保有できる
租税特別措置法の改正により、出国前に「非課税口座継続適用届出書」を証券会社に提出すれば、非課税のまま保有を継続できるようになりました(最長5年)。ただし以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 出国理由が「会社の海外転勤」または「その帯同配偶者」であること
- 出国前に証券会社に「非課税口座継続適用届出書」を提出すること
- 5年以内に帰国する予定があること(5年を超えるとNISA口座は廃止)
⚠️ 自己都合の海外移住・留学・ボランティア活動目的の出国は対象外です。この場合は継続保有制度が使えず、NISAは廃止・課税口座に払い出しとなります。
■ 帰国時には「帰国届出書」を提出
帰国後にNISAを再開する場合は、「帰国届出書」を証券会社に提出します。これにより再びNISA口座で新規買付が可能になります。
5年を超えて帰国した場合、NISAは廃止済みのため再開はできません。新たにNISA口座を開設することになります。
3. 主要9証券会社の取り扱い比較(2025年時点)
同じ法律のもとでも、証券会社ごとに継続できる商品の種類や手続き方法が異なります。以下の表で確認してください。
| 証券会社 | NISA 継続保有 | 継続できる主な商品 | 特定口座 | 備考・注意点 |
| SBI証券 | ◎ | 国内株・外国株・投資信託 (2025年5月〜課税口座の外国株も継続可) | 廃止→一般口座 (帰国時に再組入可) | 2025年1月〜対応開始。転勤・帯同配偶者のみ(留学等は対象外) |
| 楽天証券 | ◎ | 国内株・外国株・投資信託 (2024年末〜拡充) | 廃止→一般口座 | 5年超の長期出国予定者は口座閉鎖を推奨。留学等は対象外 |
| 野村証券 | ◎ | 国内株・投資信託 (対面証券で早期から対応) | 廃止→一般口座 (帰国時に再組入可) | 継続適用届出書提出日から最長5年後の年末まで非課税保有可 |
| マネックス証券 | ○ | 国内株・外国株・投資信託 (継続保有のみ) | 廃止→一般口座 | 5年後の年末でNISA廃止・一般口座へ払出。投信積立は出国後すみやかに解約 |
| 松井証券 | △ 要確認 | 出国前に顧客サポートへ要連絡。詳細は個別確認 | 廃止→一般口座 | 非居住者の定義:海外1年以上または期間の定めのない転勤等。出国前に必ず連絡を |
| 大和証券 | △ 限定的 | 売却のみ可(やむを得ない場合) 新規取引は一切不可 | 廃止→一般口座 | 租税条約対応・納税処理対応等の特別サービスなし。所定の手続き後、保有継続 |
| 三菱UFJ eスマート証券 | 要確認 | 条件を満たせば維持できる可能性あり (必要書類は支店に要確認) | 廃止→一般口座 | 旧名:三菱UFJモルガン・スタンレー証券。条件・必要書類は個別に取引店舗へ確認 |
| SMBC 日興証券 | 要確認 | 所定の手続きとSMBC日興証券の承認が必要 | 廃止 | 承認された場合のみ口座維持可。詳細は取引店舗に要確認 |
※上記は2026年4月時点の情報です。各社の対応は随時変更されます。出国前に必ずご自身の証券会社の最新情報を確認してください。
※「◎」=幅広く継続保有可、「○」=一定条件で継続可、「△」=対応に制限あり・要確認
4. 証券会社別のポイント解説
■ SBI証券:2025年から大幅拡充
SBI証券は2025年1月から非居住者のNISA継続に対応を開始しました。2025年5月31日からはさらにサービスを拡充し、課税口座の外国株式なども継続保有が可能になっています。ネット証券では最も充実した対応と言えます。
■ 楽天証券:2024年末に投資信託・外国株まで拡充
楽天証券は2024年末に対応商品を拡充し、投資信託や外国株式もNISA口座での継続保有が可能になりました。ただし5年を超える長期出国予定者は口座閉鎖を推奨していますので、赴任期間の見通しを確認したうえで検討してください。
■ 野村証券:対面証券では早くから対応
野村証券は対面証券の中で比較的早期からNISAの継続に対応してきた証券会社です。特定口座は廃止されますが、帰国時に再度特定口座へ組み入れ直すことができます。担当者に相談しやすい環境は対面証券の強みです。
■ マネックス証券:継続可能だが5年でNISA廃止
マネックス証券もNISA継続保有に対応しています。ただし継続適用届出書提出日から5年後の年末にNISA口座は廃止され、保有商品は一般口座へ払い出されます。また、投資信託の積立設定は出国後すみやかに解約されますので注意が必要です。
■ 松井証券・大和証券・その他:個別確認を推奨
松井証券・大和証券・三菱UFJeスマート証券・SMBC日興証券は、個別の状況によって対応が異なります。利用中の場合は出国前に必ず直接確認してください。特に大和証券は転出中の新規取引が一切できないため注意が必要です。
5. 「自己都合の海外移住」「留学」は対象外:最も危険な落とし穴
この継続制度の最も重要な制限は、「会社命令による転勤・帯同配偶者」のみが対象であり、以下は対象外であることです。
- 自己都合による海外移住(転職先での現地採用・フリーランスとして海外移住など)
- 留学(語学留学・大学院留学を問わず)
- 自主的なボランティア活動を目的とした出国
- 海外移住(退職して移住する場合)
| 対象外の場合:NISAは廃止・課税口座へ払い出し → 非課税の恩恵はなくなります。ただし売却を強制されるわけではなく、 一般口座(課税口座)に移管して引き続き保有することは可能です。 → 一般口座では売却時に約20%の譲渡所得税がかかります。 |
外資系企業への転職や起業を機に海外移住する方はこの制限に該当するケースが多く、プロビタスへの相談でも最も多いパターンの一つです。
6. 有価証券が1億円以上ある方:出国税(国外転出時課税)にも注意
NISAとは別に、有価証券等の時価合計が1億円以上の居住者が出国する場合には「出国税(国外転出時課税)」の対象になります。
■ 出国税とは
出国時点で有価証券等の含み益をみなし譲渡して所得税を課税する制度です(平成27年7月〜)。シンガポール・香港などのキャピタルゲイン非課税国に移住して株式売却益に課税されるのを防ぐための措置で、日本以外の先進国でも広く導入されています。
■ 対象となる有価証券等
- 株式(上場・非上場を問わず)、国債・社債、投資信託の受益証券など
- 未決済の信用取引、デリバティブ取引
- 注:暗号資産・ストックオプションは現行制度では対象外
■ エクスパット(外国人駐在員)は対象外になることが多い
外国人であっても出国税の対象になりえますが、以下の一定の在留資格で在留していた期間は通算から除外されます。
| 通算期間から除外される在留資格(主なもの) 外交、教授、芸術、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、短期滞在、留学 等 → 就労ビザで在留していた外国人の多くは、出国税の対象にならないケースが多い |
■ 2025年から出国税の税務調査が急増
プロビタス税理士法人では、2025年に入り出国税に関する税務調査のご相談を複数お受けしています。未上場企業のオーナーが海外移住した後、法人に税務調査が入り、そこで個人の出国税無申告が発覚するケースが典型的なパターンです。
「海外に住んでしまえば大丈夫」は通用しません。出国税の無申告は重加算税(35%)の対象となります。出国前に必ずシミュレーションと申告の検討を行ってください。
出国税の詳細・税務署とのQ&Aはこちらの記事をご覧ください。
| ▶ 関連記事:【実録】国外転出時課税(出国税)について税務署で聞いてきた → https://probitas.jp/kokusaizeimu/kojinmuke/exitttax1/ |
7. 出国前にやるべきことチェックリスト
| 確認事項 | 期限・備考 | |
| □ | 利用中の証券会社がNISA継続に対応しているか確認 | 出国前・できるだけ早く |
| □ | 出国理由が「会社の海外転勤」または「帯同配偶者」か確認 (自己都合・留学は継続制度対象外) | 出国前 |
| □ | 「非課税口座継続適用届出書」を証券会社に提出 | 出国前(必須) |
| □ | 特定口座の廃止手続き・一般口座への振替を確認 | 出国前 |
| □ | 投資信託の積立設定を停止 | 出国後すみやかに(会社によっては出国後に自動解約) |
| □ | 有価証券等の時価合計が1億円以上かどうか確認 → 1億円以上なら出国税のシミュレーションが必要 | 出国前 |
| □ | 5年以内に帰国する予定かどうかを確認 (5年超の場合はNISA口座が廃止される) | 出国前 |
| □ | 帰国時に「帰国届出書」を提出してNISAを再開 | 帰国後すみやかに |
8. よくあるご質問
Q:出国前に届出を出し忘れた場合、どうなりますか?
A:各証券会社に早急にご確認ください。
Q:帰国が5年を超えそうになりました。どうすればよいですか?
A:継続適用は最長5年です。5年を超えることがわかった時点でNISA口座は廃止となり、保有資産は一般口座へ払い出されます。具体的な手続きは各証券口座にお問い合わせください。なお、税務上は納税猶予制度を利用した場合に限り出国税の猶予期間を最長10年まで延長できる制度があります。
Q:渡航先がアメリカ・シンガポールです。何か追加で注意することはありますか?
A:渡航先の税制によっては、日本のNISA口座で保有する資産について現地で課税される場合があります。特にアメリカでは日本のNISAが現地で適格口座として認められないことが多く、配当等に対して現地課税が生じうるため、事前に税務専門家への確認を強くお勧めします。
Q:iDeCoはどうなりますか?
A:iDeCoは原則として非居住者になると掛金の拠出ができなくなります(企業型DCは会社のルールによります)。加入中の方は運用指図者として口座を維持することは可能ですが、拠出は停止されます。手続きは各金融機関に確認してください。
9. プロビタス税理士法人にご相談ください
海外赴任・海外移住に際するNISAの手続きと出国税の判定は、見落としがちなポイントが多く、放置すると重加算税や非課税取消のリスクがあります。
- 利用中の証券会社のNISA継続可否の確認・アドバイス
- 自己都合移住・留学など制度対象外の場合の最適な対処法
- 有価証券1億円以上の場合の出国税シミュレーション・申告書作成
- 出国税の税務調査対応
- 英語でのご対応
| 初回のご相談は無料です 英語対応可 | ビデオ会議・Slack・メール | メール24時間受付 ▶ お問い合わせ:https://probitas.jp/web/contact-2/ |
本記事は2026年4月時点の情報に基づいています。各証券会社の対応は随時変更されますので、出国前に必ずご自身の証券会社の最新情報を確認してください。






