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事業承継税制の適用に慎重になるべき場合

目次
平成30年度(2018年)の税制改正で、画期的な制度が導入されました。特例事業承継税制(新事業承継税制)の適用を受けると、非上場株式を先代経営者から後継者に贈与する際にかかる贈与税が猶予されます。その後、先代経営者に相続が発生した場合には、贈与時に猶予された税金は、相続税においても猶予されます。一定の手続きにより、半永久的に課税が猶予される仕組みになっています。
 
しかし、この制度も万能ではありません。新事業承継税制を適用したところで、結果的に別の問題が発生するということも考えられます。以下に想定される問題を挙げてみました。

1. 2027年12月31日までに現在の代表者が退任や辞任をする予定がない

特例事業承継税制は、2027年12月31日までに、現代表者保有の株式の後継者への贈与と代表者の退任が必要となります。もし現経営者の方が、事業の承継をまだ先のことと考えており、当面は事業承継の意思がないケースは、新事業承継税制を適用する必要はありません。
 
ただし、仮に退任の予定は当面ないとしても、急に病気で倒れるなどの可能性もあります。その保険として、特例事業承継計画書を作成するというケースはございます。
 

2. 後継者が複数おり、相互の意思疎通が難しい状況である

特例事業承継税制において、複数人への事業承継が認められるようになりました。しかしその後継者たちが仲が悪く、意思疎通が難しい状況であったり、経営理念/経営方針が一致していない場合には、恐らく今後の経営はうまくいかないものと見込まれます。
 
特例事業承継税制において、複数人への事業承継が認められてはおりますが、上記の場合には適用すべきではありません。
 
このような場合には、
(1)現経営者が元気なうちに後継者一人を指名して、関係者にしっかりと周知させる
(2)会社を分割して、それぞれに別の会社を経営させる
という選択が有効であるでしょう。
 

3. 後継者以外の推定相続人から遺留分の減殺請求を受ける可能性がある

特例事業承継税制において、経営者から後継者への株式の贈与は、特別受益になるものと考えられます。そうなると他の相続人から遺留分減殺請求の対象となります。他の相続人との仲が悪い、意思疎通が難しい場合には、遺留分の減殺請求を受ける可能性があります。
 
このような場合には、民法の遺留分の特例(除外合意、固定合意)を、現経営者が元気なうちに検討しておく必要があります。あわせて遺言の作成も有効でしょう。
 

4. すでに相続時精算課税制度を先代経営者が使用している場合

特例事業承継税制においては、相続時精算課税を併用するのが一般的であると考えております。それは、相続時精算課税の適用時点で課税の金額が確定するので、贈与の後に株価が上昇しても税額に影響がないからです。もちろんその後暦年課税が適用できない、業績が下降することによる問題があります。
 
メリットの多い相続時精算課税ですが、一度しか使うことができません。過去に相続時精算課税の適用を受けている場合には、特例事業承継税制による贈与の際に、相続時精算課税の適用をうけることができません。
 
株価が上昇することがリスクになってしまい、税理士としては特例事業承継税制の適用に慎重になるという印象です。
 

5. 納税猶予が途中で取消/取りやめになる可能性が高い場合

納税猶予が取消や取りやめになる事由は多岐にわたります。半永久的に、取消にならないように細心の注意を払わなければなりません。
 
新事業承継税制の手続きは煩雑であり、その期間は長期に及びます。仮に納税猶予が途中で取消/取りやめになる可能性が一定程度存在するのであれば、適用しない方が良いかもしれません。
 
 

以上、新しい事業承継税制の適用に慎重になった方が良いケースをご紹介しました。新しい事業承継税制は非常に強力な制度ですが、ただ未来永劫この制度に縛られてしまうというデメリットがあります。適用に当たって、上記のようなことが発生しないかは検討することをお勧めいたします。

 

この記事の執筆者

片山 康史

税理士 / 中小企業診断士

プロビタス税理士法人代表。 「自分の知識と経験で皆を幸せに」をモットーに、税務の問題を解決する情報を発信しています。外資系企業向けの国際税務が得意です。