国税不服審判所の裁決事例(令和6年11月1日裁決)は、米国LLC(リミテッド・ライアビリティ・カンパニー)がタックスヘイブン税制(CFC税制)の対象である「特定外国関係会社」に該当するかどうかを争点としたものでした。
https://www.kfs.go.jp/service/JP/137/04/index.html
興味深いと思い、真面目に読んでみました。下記にまとめましたので、参考になりましたら幸いです。
この裁決の全体像:何が問題だったのか?
この事例の最大の争点は、「持分(利益配分)の割合」と「出資の個数」が一致しない米国LLCにおいて、タックスヘイブン税制の判定基準である「50%超の保有」をどう計算するかという点です。50%超の保有ではなければタックスヘイブン税制に規定する「特定外国関係会社」には該当せず、タックスヘイブン税制の適用は受けません。(50%超の保有と認められると、恐らく多額の課税が発生するのだと思います)
- 背景: 請求人(日本の居住者)が米国の複数のLLC(本件各社員LLC)の社員となっていました。
- 税務署の主張: 請求人の「利益配分権」や「実質的な支配力」で見れば50%を超えているので、タックスヘイブン税制を適用して合算課税すべき。
- 請求人の主張: 条文にある通り「出資の数」で計算すべきだ。自分は1ユニットしか持っておらず、総数(多数の社員)の中で見れば50%を大きく下回るため、特定外国関係会社には該当しない。
争点:保有割合をどうカウントするか?
タックスヘイブン税制の対象(特定外国関係会社)になるかどうかは、日本の居住者が「発行済株式等の50%超」を直接または間接に保有しているかで判定します。
ここで、米国LLCのように「株式」を発行しない法人の場合、法令(施行令)では以下のいずれかで判定するとされています。
- 出資の数(口数など)の割合
- 議決権のある出資の数の割合
- 配当等を受ける権利 または 残余財産の分配を受ける権利(=経済的価値)の割合
なぜ揉めたのか?(実務上のトリック)
このケースのLLCでは、1人1票(1ユニット)の議決権・出資数しか持たない多数の社員(現地従業員など)がいる一方で、請求人は利益の大部分を受け取る権利を持っていました。
- 「数」で数えると: 全社員が1つずつ持分を持っているので、請求人の割合は数%。
- 「経済的価値」で数えると: 請求人がほぼ独占しているので、50%を余裕で超える。
審判所の判断:どちらの「数」を採用したか?
審判所は、以下のようなロジックで税務署の主張(合算課税)を支持しました。
1. 「出資の数」による判定の限界
審判所は、「出資の数」で判定できるのは、それぞれの出資1単位が**「等質(同じ価値や権利)」である場合に限られる**と判断しました。
このLLCのように、1単位あたりの利益配分権が社員によってバラバラな場合、単に「個数」を数えて割合を出すことは、制度の趣旨(実質的な支配を捉える)に照らして不適当であるとしました。
2. 「利益配分権」による判定の採用
個々の出資が等質でない以上、個数(1、2、3…)ではなく、「利益配分」や「残余財産の分配」を受ける権利の割合で50%超かどうかを判定すべきであると結論付けました。
この判例の重要ポイント(まとめ)
この裁決が実務に与えた影響は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
| 結論 | 形式的な「口数」ではなく、実質的な「利益配分率」で判定された |
| LLCの怖さ | 米国LLCは「運営合意書(Operating Agreement)」で権利を自由に設計できるため、日本の税制を適用する際に「形式」が通用しないリスクがある |
| 教訓 | 多数のメンバーを加入させて「個数」としての保有比率を下げても、利益の大部分を日本の親会社や個人が取る仕組みにしているなら、タックスヘイブン税制からは逃げられない |
💡 プロビタス税理士法人としての視点
この裁決は、米国LLCを利用した節税スキーム(特に「数」だけを分散させて合算課税を免れようとする手法)に対して、税務当局が「実質(経済的価値)」を見て課税することを追認した形になります。
もし米国LLCを設立し、そこに日本の役員や従業員を参加させている場合、Operating Agreement(運営合意書)における利益配分条項が、日本のタックスヘイブン税制上の「50%超」の判定にどう影響するか、精緻に分析しておく必要があります。
1. 根拠となる条文:租税特別措置法施行令 第25条の17 第3項(令和6年時点の条文)
外国法人に「株式」がない場合(米国LLCなど)、特定外国関係会社の判定基準となる「50%超の保有割合」は、以下の3つの基準のいずれかで計算すると定められています。
| 基準の順序 | 判定に用いる指標 | 条文のポイント |
| 第1号 | 出資の数 | 「数」の割合(1人1票、1口1円など) |
| 第2号 | 議決権のある出資の数 | 「議決権」の割合 |
| 第3号 | 配当・残余財産の分配権 | 「経済的利益」の割合(受け取るお金の比率) |
2. 審判所が示した「判定の優先順位」
この事案で最も重要なのは、「1号・2号(数)」と「3号(利益配分)」のどちらを先に使うかという解釈でした。
請求人の主張(1号・2号優先)
「条文の並び順(1号→2号→3号)に従って、まずは『出資の数』で判定すべきだ。数が明確なら、3号(配当権)を検討する必要はない」という主張です。
審判所・税務署の判断(実質優先)
審判所は、この条文の適用について以下のような「等質性(同じ権利かどうか)」という条件を突きつけました。
- 原則: 「出資の数(1号・2号)」で判定できるのは、それぞれの出資が**「等質(同じ経済的価値を持っている)」**場合に限られる。
- 例外: 出資1単位あたりの「配当を受ける権利」が異なる(非等質)場合、単に「個数」を数えても、その法人の支配実態を正しく反映できない。
- 結論: LLCの「運営合意書(Operating Agreement)」において、請求人の利益配分率が他のメンバーと明確に異なっていたため、1号・2号の適用は否定され、「3号(配当等の受領権利)」による判定が強制適用されました。
3. 具体的に適用された「第3項第3号」の中身
審判所が最終的に適用した「第3項第3号」は、以下の2つのうち「いずれか多い方の割合」で判定すると定めています。
- 配当等の額を受ける権利
- 残余財産の価額の分配を受ける権利
本件のLLCでは、請求人が利益の約9割を受け取る権利を有していたため、**「個数(数%)」ではなく「利益配分(約90%)」**が採用され、50%超(特定外国関係会社)という認定が下されました。
4. この裁決が実務に与えた教訓
この解釈により、米国LLCを利用した以下のようなスキームは完全に封じられたことになります。
- 形式的な分散: 現地従業員などに1ユニットずつ持分を持たせ、「出資の数」としての保有比率を50%以下に抑える。
- 実質的な集中: ただし、実際の利益のほとんどは日本の親会社やオーナーに流れるように契約(Operating Agreement)を組む。
審判所は、「日本の税法を適用する以上、実質的な経済的支配(3号)を無視して、形式的な個数(1号)を優先させることはできない」という極めて厳しい、かつ実質を重視する姿勢を明確にしました。
5. 独り言
判例を読む限りは、なるほどそうか、と思います。ただ実際に自分が事例に遭遇した場合に、同じように対応できるかというと疑問です。
・形式的ではなく実質的な基準で判断しなければならない。要は納税者不利の保守的な観点で判断しなければならない。
・米国LLCの知識がなく、そこまでの判断が自分たちで行えるかどうかわからない。
アメリカではLLCやLPSなどは一般的なエンティティであり、実務ではよく遭遇する案件です。それを「実質的な基準で判断しろ」というのは実務を担当する税理士としては悩ましい気持ちになります。
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