海外、特にタックスヘイブン(低税率国)にある子会社を清算する場合、現地での税金だけでなく、日本の親会社側で思わぬ課税が発生するケースが多々あります。
最近、実際に当事務所へ寄せられたご相談事例をもとに、日本法人側で検討すべき税務のポイントを5つの項目に整理して解説します。
今回のご相談事例
- 状況: 某タックスヘイブン国の子会社を清算。
- 前提: 親会社は毎年「タックスヘイブン税制(CFC税制)」を適用して申告済み。
- 補足: 当該国と日本との間には租税条約がない。
子会社の清算そのものに日本の法人税はかかりませんが、親会社の日本の法人税の課税計算において以下のポイントが重要になります。
1. 寄附金課税(債権放棄のリスク)
海外子会社が赤字で債務超過の場合、親会社が貸付金などを「債権放棄」して清算を支援することが一般的です。ここで注意が必要なのが「寄附金」とみなされるリスクです。
- 原則: 親会社が被る損失(債権放棄額)は、子会社への「寄附金」とみなされ、全額が損金不算入(経費にならない)となるリスクがあります。
- 例外: 倒産必至の状況で、そのまま放置すると親会社がより大きな損失を被ることが明らかな場合などは、正当な理由があるとして損金算入が認められます。
- ポイント: 「なぜ債権放棄が必要だったか」という経営状況の証拠を残しておくことが不可欠です。
2. 「みなし配当」の認識(外国法人も対象)
子会社を解散し、残った財産を分配する際、その金額が「出資した金額」を超えている場合、その超えた部分は「配当」とみなされます。これを「みなし配当」と呼びます(法人税法24条)。
- 注意点: 忘れられがちですが、このルールは内国法人のみならず、外国法人の解散にも適用されます。
- 会計処理: 交付を受けた金額から出資金額を引いた額を「受取配当金」として計上する必要があります。
3. 二重課税を防ぐ「益金不算入」の特例
タックスヘイブン税制(CFC税制)を適用してきた場合、子会社の利益に対しては既に日本で税金を払っているはずです。ここに「みなし配当」として再度課税されると二重課税になってしまいます(租税特別措置法66条の8)。
- 調整のルール: 配当を受ける日前10年以内に、タックスヘイブン税制で課税された所得の範囲内であれば、その配当額は「益金不算入(つまり非課税)」となります(租税特別措置法66条の8)。
- 外国税額控除: 益金不算入となる部分については、基本的に外国税額控除の適用はありません。法人税法施行令142条の2を読む限りは、外国税額控除の適用はないように見えます。(ただご質問を受けたケースは、外国税額がなかったので、これ以上の検討はしていませんでした)
4. 株式の譲渡損益
清算に伴って残余財産の分配を受けた場合、最終的に「親会社が持っていた子会社株式」を処分することになります。この際の譲渡損益は以下の式で計算します。
譲渡損益 = 交付された金銭等 - みなし配当の額 - 株式の取得価額
この計算によって、最終的な株式の売却損(または益)を確定させます。
5. 子会社株式簿価減額特例(いわゆるソフトバンク税制)
一定の要件を満たす場合、子会社から多額の配当を受け取った際に、その分だけ「子会社株式の帳簿価額を減らす」というルールがあります。
- 目的: 「配当を非課税で受け取りつつ、株価を下げて売却損も計上する」という、二重の節税メリットを防ぐための制度です。
- 適用除外: 1. 設立時から100%支配している場合 2. 10年超にわたって支配している場合 3. 事業年度内の配当額が2,000万円以下の場合 などは対象外となります(令和4年の税制改正によって、より複雑となっておりますが、その内容は反映しておりません。)。(なお、今回質問を受けたケースは、10年超支配要件および金額要件を満たしていたので、当該規定の適用はありませんでした)
まとめ
海外子会社の清算は、現地の法務手続きだけでなく、日本の法人税法における「寄附金」「みなし配当」「CFC税制との調整」といった複雑な検討がセットで必要です。
特に長期にわたってタックスヘイブン税制を適用してきた場合は、過去10年分の課税実績を正確に把握しておく必要があります。清算をご検討の際は、お早めに専門家へご相談ください。



主要なタックスヘイブン地域
- カリブ海地域:
- ケイマン諸島(イギリス領)
- イギリス領バージン諸島
- バハマ
- バミューダ諸島
- パナマ
- アンギラ
- ヨーロッパ:
- モナコ
- ルクセンブルク
- アイルランド(かつて低税率で知られていた)
- アジア・太平洋:
- 香港
- シンガポール
- マーシャル諸島
- フィジー
- パラオ
- その他:
- アメリカ合衆国デラウェア州(特定の法人設立の優遇措置がある)
- ドバイ(アラブ首長国連邦






