先日、お客様からご質問をいただきました。
「 外資系企業の日本法人で10年以上働いています。先日、その外資系企業の海外親会社(アメリカ)から、褒賞金としてボーナスをもらいました。永年勤続表彰というものです。そのボーナスは、アメリカで課税されて税金を払ったようです。 このボーナスは日本でも申告する必要があるのでしょうか?アメリカで支払った税金と二重になるけど、これは正しいのでしょうか?」
(その従業員の方は日本国籍で、グリーンカードなどは保持していません)
【回答】アメリカで払った税金は取り戻せます!
海外の会社から支払われたボーナスでも日本で申告する必要があります。またアメリカで支払った税金は、日本の確定申告において外国税額控除により、日本の税金から控除することができます。
計算してみたところ、お客様がアメリカで払った税金は、すべて全額、外国税額控除により、日本の確定申告で戻りそうです!
【解説】海外で稼いだ収入の取扱
お客様は、日本で10年以上働かれています。その場合、日本の税法上においては”居住者”として取り扱われます。“居住者”の定義は、国際税務の基礎用語のページもあわせてご参照ください。
“居住者”の場合、全世界で獲得した儲けに対して、日本で確定申告をしなければなりません。したがって、海外の親会社からのボーナスも確定申告をしなければなりません。
確定申告書を提出することが必要です。年末調整では還付できません。日本法人から支払われた給与やボーナスは年末調整の対象です。しかし海外の会社から支払われた給与やボーナスは年末調整の対象とはなりませんので、各人が確定申告をしなければなりません。
二重課税には外国税額控除
海外で支払われた給与に対して、その支払われた国で課税されることがあります。そして、”居住者”の場合には、日本でも確定申告をして税金を支払わないといけません。
海外でも日本でも税金が課税されてしまっています。これを“二重課税”の状態と言います。二重課税は原則として認められませんので、その二重課税の状況を排除する必要があります。
日本においては、海外で支払った税金を日本の税金から控除することによって、二重課税の状態を排除することとなっています。その控除の仕組を”外国税額控除”と言います。
お客様の場合、“外国税額控除”の仕組を用いて税金の控除を受けることになります。国際税務の実務において外国税額控除は頻繁に使われる制度です。
【注意点】外国税額控除の仕組…”外国の税金ならなんでもOK”ではない
税金には色々あります。法人税や所得税、自動車税や固定資産税…外国であればさらに様々です。そのすべてが外国税額控除の対象になるわけではありません。 外国で払った税金が必ずしもすべて控除されるわけではないのです。
原則的には、”所得に対して課される税金”です。儲けに対して課税される外国の税金になります。外国税額控除の適用を考える場合には、まずその外国の税金が対象になるかを検討する必要があります。参考:外国税額控除
例えば中国の増値税は外国税額控除の対象になりません。増値税は、日本で言うところの消費税であり、所得に対して課される税金ではないからです。
いくら戻る?…外国税額の全額が控除できるわけではない
残念ながら外国の税金の全額が控除できるわけではありません。日本で支払っている税金以上の控除は認められていません。目安ですが、日本の方が税率が高ければ、全額が控除できる可能性が高いでしょう。でも日本とそれほど税率が変わらない国の外国税金であれば、全額は控除できない可能性があります。(控除しきれなかった金額は翌年以降に繰り越すことはできます、複雑ですね)
法律用語としては控除限度額が大事になります。その控除限度額の範囲内でしか控除できません。それは法人税でも所得税でも同じです。控除限度額の計算は以下のようにします。
控除限度額の計算方法
①控除対象外国税額
②控除限度額控除
限度額 =当期の全世界所得に対する法人税/所得税額 × 当期の国外所得
(注)/ 当期の全世界所得
(注)国外所得が当該事業年度の全世界所得金額の90%に相当する金額を超える場合には、全世界所得の90%に相当する金額が国外所得金額とされる。
③当期の外国税額控除額=①と②のいずれか小さい金額
日本より税率の高い国の税金は全額控除できないこともあります。(あまり多くないですが…)
租税条約の限度税額
さらに租税条約との関係で、租税条約の限度税率が定められている場合には、その限度税率までしか控除できません。我々が良く受ける経験のある問い合わせですが、アメリカでW-8BENを提出していないため、使用料に対して30%のUS税額が課税されていることがあります。外国税額控除により取り戻したいところですが、日米租税条約で使用料は免税とされています。したがって、アメリカで税金を支払っていたとしても、外国税額控除を受けることができません。
外国税額控除のタイミング
外国税額控除で大事なことの一つはタイミングです。外国税額控除は、外国税を納付することとなる日の属する事業年度において適用されます。
ただし、継続適用を要件として、納付確定税額を納付ベースその他税務上合理的な基準に基づき費用として計上した日の属する事業年度において適用することも認められています。
外国法人税を納付することとなる日は、外国の法令に基づいて判断されますが、不明確な場合には、日本の国税通則法に準じて納付確定日を決定することになります。外国税の納付する方法によって、外国税額控除が適用されるタイミングが定められています。
申告納税方式
申告書の提出の日(その日が法定申告期限前である場合にはその法定申告期限、更正または決定があった場合にはその更正または決定の日)
賦課課税方式
賦課決定の通知日
源泉徴収方式
源泉徴収の対象となった利子、配当、使用料等の支払日
外国税額控除のタイミングで難しいこと
外国税額控除の適用を受ける場合には、確定申告書に明細を記載し、海外の課税当局が発行した納税証明書などの書類を保存する必要があります。
日本の場合、所得税の確定申告書の提出期限は翌年3月15日です。これは世界的にみると、とても早いです。その場合、翌年3月15日までに税額が確定しません。なので一般的には、控除限度額だけ計算した確定申告書を提出し、外国税額控除は翌年に行うということが実務ではよく行われてます。
外国税額控除の適用を忘れてしまっていたら
昔は当初申告要件があって、もし外国税額控除の適用を忘れていたら、泣き寝入りでした。しかし税制改正があって、当初申告要件が排除されました。したがって、現在では、もし適用を忘れてしまっていたとしても、法定申告期限から5年以内に”更正の請求”をすることにって、適用を受けることがあります。
我々が良く受ける経験の問い合わせで以下があります。
(質問)「海外の所得の申告がもれていました。その所得には海外の税金も課されています。どうしたらいいですか?」
(回答)海外の所得の申告が漏れていたら、早急に確定申告をしましょう。そのタイミングで外国税額控除を受けることができますよ。添付書類として、海外で税金を支払ったことがわかる書類(確定申告書や源泉徴収票)が必要になるので、早急に用意してくださいね。
その他 外国税額控除は義務?
(質問)「外国税額控除の申告を忘れていました。ペナルティはありますか?デメリットはあります?」
(回答)外国税額控除は義務ではありません。忘れていたからと言ってペナルティがあるわけではありません。デメリットは、恐らく税負担が増えることですね。
(質問)「外国税額控除は難しいので、外国税金を費用としていました(損金算入)。問題はありますか?」
(回答)外国税金を費用として、損金算入していても、ペナルティはありません。デメリットは、損金算入の方が税金が増えることですね。
最後に
海外で支払った税金をいつ控除するのかというのはいつも悩むことの一つです。もし海外で税金を支払ったことによる二重課税で悩まれているようでしたら、経験豊富なプロビタス税理士法人にご相談ください。
ご覧になっていただきありがとうございました。
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