「使用料」の落とし穴。海外法人から設備を借りたら源泉徴収が必要?【実例解説】

とある法人の税務調査に立ち会っていた際、調査官から放たれた一言に私はヒヤリとしました。

「この貸借料、源泉徴収が必要なのではないですか?」

指摘されたのは、シンガポール法人からの請求書。内容は、シンガポール国内にある「サーバーの使用料」でした。

「海外への支払いは源泉徴収が必要なケースが多い」ということは我々も認識しており、事前にチェックはしていました。しかし、この支払いが「源泉徴収の対象」であることを見落としていたのです。

なぜ、海外にあるサーバーを借りるだけで、日本で課税の対象になるのか?

使用料と言えば、ソフトウェアやロイヤリティなどを想像しがちで、そこを見落とすことはありません。しかし、使用料には盲点があります。知っておくべき「租税条約」のルールを解説します。


目次

1. 原則:日本の所得税法(国内法)の考え方

まず、日本の法律(所得税法161条)では、海外法人への支払いのうち「国内源泉所得」に該当するものについて、源泉徴収を義務付けています。

条文には、使用料として以下のものが挙げられています。

所得税法161条1項11号(要約) 国内において業務を行う者から受ける以下の使用料:

  • イ:工業所有権や技術に関する権利
  • ロ:著作権
  • ハ:機械、装置その他政令で定める用具の使用料

ポイントは、日本国内で事業を行うために使用する場合、所得の発生地は日本にあるとみなす「使用地主義」を採用している点です。今回のケースでも、シンガポールのサーバー(装置・用具)がを日本の業務で使っているので、国内法では源泉徴収の対象となります。


2. 例外:租税条約による「上書き」

ただし、日本と相手国との間に「租税条約」がある場合は、そちらが優先されます。今回の相手国であるシンガポールとの条約を確認してみましょう。

「使用料」の定義(第12条第3項)

日シンガポール租税条約では、使用料を以下のように定義しています。

この条において、「使用料」とは、文学上、美術上若しくは学術上の著作物(ソフトウェア、映画フィルム、およびラジオ放送用またはテレビジョン放送用のフィルム又はテープを含む)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式もしくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として、産業上、商業上若しくは学術上の設備の使用の対価として、又は産業上、商業上若しくは学術上の経験に関する情報の対価として受領するすべての種類の支払金及び船舶又は航空機の契約に基づいて受領する料金(第八条で取り扱うものを除く)をいう

ここでいう「設備」にはサーバーも含まれます。なおコンテナなども含まれると国税庁の事例には記載があります。

イタリア法人に支払うコンテナの使用料

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/06/28.htm

どちらの国に課税権があるか(第12条第4項)

さらに、租税条約では「債務者主義」という考え方が採用されています。それは租税条約第12条の第4項で確認できます。

「使用料は、その支払者が……居住者(日本法人など)である場合には、当該締約国(日本)において生じたものとされる」

つまり、「サーバーがどこにあるか(使用地)」に関わらず、「支払者が日本にいるなら、日本に課税権がある」と決められているのです。


3. 本件の結論:源泉徴収は必要だったのか?

今回のシンガポール法人へのサーバー代支払いを当てはめると、以下のようになります。

  1. 国内法: 設備の使用料として、日本での源泉徴収が必要。
  2. 租税条約: サーバー代は「設備の使用料」に該当し、支払者が日本法人である以上、やはり日本に課税権がある。

結論として、源泉徴収が必要でした。(なお、その税務調査では更なる検証の結果、不明な点もあり、我々からお願いして、税務当局からの指導ということで終わりました)

税率はどうなる?

  • 原則: 20.42%
  • 軽減措置: 支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」を税務署へ提出していれば、10%に軽減されます。

今回の調査では、最終的に税務当局からの「指導」という形で決着しましたが、知らずに放置していると、後から多額の源泉漏れを指摘されるリスクがあります。


4. 補足:国によって「ルールが違う」という恐怖

ここで非常に厄介なのが、租税条約の内容は国ごとに異なるという点です。

例えば、「設備の使用料」という文言について比較してみると……

  • イタリアとの条約: 「設備の使用の対価」が含まれており、源泉徴収が必要。上記で紹介した国税庁のページにも記載があります。
  • ドイツとの条約: 「設備の使用の対価」という文言がありません。 つまり、ドイツ法人へのサーバー代支払いは、原則として源泉徴収が不要になる可能性が高いのです。

このように、相手国がどこかによって「源泉徴収が必要か不要か」の判定が180度変わります。


まとめ:海外送金の際は必ず「条約」の確認を

海外法人への支払いは、単に「サービスを受けたから払う」だけでは済みません。

  • その支払いは「使用料」に該当しないか?
  • 相手国との租税条約ではどう定義されているか?
  • 軽減を受けるための届出書は出しているか?

これらを事前に確認しておくことが、税務リスクを回避する唯一の方法です。特にクラウドサービスやサーバー利用、ソフトウェアのライセンス料などを海外へ支払っている企業様は、一度チェックしてみることをお勧めします。

プロビタス税理士法人は多くの税務調査を対応していく中で、ナレッジや経験が溜まってきました。コンサルティングサービスを提供できるかもしれません。もし不明な点があれば、お気軽にお問い合わせください。

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