日本の所得税での使用料

「国際税務が専門です」と私が言うと、必ず質問を受ける項目の一つ、ソフトウェアの使用料。昨今は、クラウドシステムが一般的になり、海外へのソフトウェアの使用料の支払いが当たり前になりました。その際に疑問に感じるのが源泉徴収。
国際税務の世界では、海外送金の際に源泉徴収をしなければならないかを検討することがとても重要です。 その中でも厄介だと思うのが、”ソフトウェアの使用料”。その内容についてまとめました。
(1) 外国法人への支払いの際に源泉徴収が必要な所得として、”使用料”があります(所得税法161条①十一)。 具体的には、以下のものの使用料とされています。
国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの
イ 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料又はその譲渡による対価ロ 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価
ハ 機械、装置その他政令で定める用具の使用料
〔使用料等の所得(第11号関係)〕
なお「当該業務に係るもの」とは、「国内において業務を行う者」に対して提供・供与された工業所有権等のうち、「国内において行う業務」の用に供される部分に対応するものとされています( 所基通161-33 )。
工業所有権等の使用地により所得源泉地を決定する立場を「使用地主義」といわれています。
租税条約での使用料
ただ、支払先の外国法人がある国と日本との間で租税条約がある場合には、租税条約が適用されます。例えば、日米租税条約で”使用料”は以下のように定義されています。
1 一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者が受益者である使用料に対しては、当該他方の締 約国においてのみ租税を課することができる。
2 この条において、「使用料」とは、文学上、芸術上若しくは学術上の著作物(映画フィルム及びラジオ 放送用又はテレビジョン放送用のフィルム又はテープを含む。)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、 図面、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として、又は産業上、商業上若しくは 学術上の経験に関する情報の対価として受領されるすべての種類の支払金等をいう。
源泉所得税の改正のあらまし
プログラム複製物を販売する権利に係る所得の性格

そこで”ソフトウェアの使用料”とは具体的にいったいなんであるのか?ですが、税務通信2017年3月13日に紹介されているOECDモデル租税条約のコンメンタールの解説が参考になります。
「複製物を販売する権利を著作権法上の権利として認めている国が関係する契約には、ソフトウェアの著作権保有者が、販売仲介業者にプログラムの複製物を販売する権利を許諾しているものがある。このような場合の支払金は使用料に該当しないことを明確にするよう、ソフトウェア業界はOECDに要請していた。2008年のコメンタリー改訂で、この点が明確にされた」
川田剛、徳永匡子共著『2014 OECDモデル租税条約コメンタリー逐条解説』325頁、税務研究会出版局
ソフトウェアの著作権保有者と販売業者との取引
そこで、ソフトウェアの販売仲介業者の販売に関し、使用料に該当しないことの明確化が図られている2008年のコメンタリーを見てみましょう。
14.4 ソフトウェアの著作権の保有者と流通販売業者との間の契約においては、しばしば、当該流通販売業者に、当該プログラムを複製する権利なしに当該プログラムの複製物を頒布する権利が付与される。このような取引においては、当該著作権に関連して取得する権利は、かような流通販売業者が当該ソフトウェアのプログラムの複製物を頒布するのに必要な権利に限られる。
かかる取引において、流通販売業者は、当該 ソフトウェアの複製物の取得に対してのみ支払いを行っている のであって、どのような権利であれ当該 ソフトウェアの著作権に係る権利の利用に対して支払いを行っているのではない 。
それ故、流通販売業者がソフトウェアの複製物の取得及び頒布(だだし、当該ソフトウェアを複製する権利は付与されていない)のために支払いを行う取引においては、これらの販売行為に関連する権利は、租税に関し取引の性質を分析するに当たっては、無視されるべきである。
これらの種類の取引においての支払金は第7条に従って事業所得として取り扱われる。これは、頒布される 複製物が有形媒体で引き渡されるか (当該流通販売業者が当該ソフトウェアの複製物を有することなしに)電子的に引き渡されるかにかかわらず、あるいは当該ソフトウェアがそのインストールのために、若干の変更を必要としているか否かにかかわらず、妥当する。
(川端康之監訳『OECDモデル租税条約2008年版』190頁、第12条に関するコメンタリー(以下「OECDモデル租税条約12条コメンタリー」といいます。)、社団法人日本租税研究協会)
“著作物の使用”と”著作権の使用”
正直、理解しにくい部分だと思います。著作権法に詳しい弁護士に教えてもらって、少し理解できた気がします。なぜわかりにくいかというと、”著作物の使用”と”著作権の使用”というのは著作権法上は別の行為なのです。
“著作物の使用”の一つの形態が”著作権の使用”にあたるとのことです。例えば、海外のサイトから音楽を自分のスマホにダウンロードする行為について考えると、音楽は著作物ですので、それを自分のスマホで聞く行為は著作物の使用にあたりますが、自らが楽しむ範囲においては著作権の使用にはあたりません。
結果として、音楽のダウンロードに際して支払った対価は、租税条約で定める”著作権の使用”にあたらず、源泉徴収は不要という解釈になります。
結論から言うと、源泉徴収は不要だと解されています。実務的にはその運用が一般的です。
根拠となるのはOECDのコメンタリーです。OECDモデル租税条約第12条(使用料)のコメンタリーに記載されています。このコメンタリーが、税務当局のクラウドサービスの源泉徴収に関する実務判断の重要な根拠となっています。
第12条「使用料」に関するコメンタリー:
このコメンタリーの中で、ソフトウェアの使用料と、ソフトウェアを利用してサービスを受けることの違いについて言及されています。
「ソフトウェアの著作権そのものの使用許諾」はロイヤルティに該当しますが、「サーバー上のソフトウェアを遠隔で利用する」サービス(SaaS等)は、著作権の許諾を伴わないため、ロイヤルティではなく「事業所得」に該当するとされています。
2025年9月追記 使用料による追徴課税の事例「ブルックスブラザーズ」
大きなニュースが出ました。「ブルックスブラザーズ」課税漏れ 約25億円を東京国税局指摘
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000453860.html
詳細は公表されていないのでわからないのですが、ニュースを読むと、租税条約の届出書が古い契約に基づくものだったようです。
税理士としては、「これは怖いな」と思いました。使用料の契約内容を逐次確認しているわけではありません。契約内容が更新されたことを教えてもらえれば対応もできますが、必ずしもそうではないでしょう。でも本当にそうだったとして、契約内容の変更が微細であれば、25億の課税に踏み切るのでしょうか?どの程度の変更だったのか、興味はあります。
まとめ
税務調査の現場で、AWSやOffice365の使用料について源泉徴収が求められることはありません。ソフトウェアの改編や再頒布をしない限りは源泉徴収は不要でしょう。それは上述のコメンタリーが根拠になっています。ただ国内法や租税条約において、明確な法令根拠があるわけではありません。そして税務当局もその急激なシステムのクラウド化に対応できていないのが現実です。先般の税務調査においても、東京国税局管内で、明確に本件について対応できるのは数名のみだと聞きました。
GoogleやAmazon、Microsoftなどへのクラウド使用料など、海外に支払うソフトウェア使用料は多くあると思います。SAPやOracleなどのERPソフトウェアについては、外資系企業日本法人は、海外へ支払うでしょうし、日系企業は、海外子会社から受け取ることもあるでしょう。
その都度、その支払いが、”著作権の使用料”に該当するかを、著作権に詳しい弁護士に確認するか、そのソフトウェアベンダーに確認する必要があるのです。
ただコストがかかる話ですので、いちいち確認せずに租税条約の届出書を提出してしまうというのも実務的な保守的判断であると考えます。
時代の変化は早く、ソフトウェアの使用料を取り巻く環境は劇的に変化している昨今ですが、その環境の変化に税法が追い付いていないように思います。
使用料については、こちらのページもご覧ください。

最後に、ロイヤリティの料率についての記事を合わせてご参照ください。










