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<積立NISA・事業譲渡類似・不動産化体>(移住前に要確認)海外居住者・外国法人が日本の株式を売却したら?

海外居住者・海外の法人が日本の株式を売却する時に考えなければならないことをまとめました。積立NISA/事業譲渡類似株式/不動産化体株式…場合によっては、海外移住前に検討していた方が良いことも多くあります。海外移住の相談を多く受けているプロビタス税理士法人にご相談ください。
目次

最近は、海外に移住したいというと問い合わせを受けることが多くなってきました。

その場合に、検討しなければならないのが、保有していた株式です。海外移住の際に、保有株式について考えておかなければならないことをまとめました。

日本居住中につみたてNISAをしていた場合

ほとんどの証券会社は、非居住者が積立NISAを継続投資することは認められていません。ただ証券会社によって、取り扱いには若干の差異があります。

  1. 楽天証券:日本株式、個人向け国債以外の商品は売却する必要があります。オルカンやS&P500インデックスなどの投資信託などを継続して投資することは認められていません。
  2. SBI証券:楽天証券と同じです。
  3. 野村証券:すべてを売却する必要はありません。5年以内であれば、継続して保有することは認められています。

    ちなみに非居住者の定義は以下になります。

    所得税法では、「非居住者」は「居住者」以外の者とされており、「居住者」とは以下に該当する方をいいます。

    • 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。
    • 居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が五年以下である個人をいう。

    出国税

    出国税を検討しなければなりません。出国時に時価で1億円以上の有価証券を保有している場合に、有価証券を売却したものとみなして税金を納付する制度です。

    ただ5年以内(一定の場合には10年以内)に日本に戻ってきた場合には、税金は戻ってきます。また担保を供すれば、納税が不要となる仕組みもあります。詳細は以下をご確認ください。

    原則的な取扱い 特に非上場株式の場合

    海外在住の非居住者が日本の会社の株式を売却した場合、譲渡所得が課税されることはありません。

    租税条約OECDモデル条約では、譲渡所得については、譲渡者の居住地国でのみ課税される、とされており、その取扱いになっている租税条約がほとんどです。

    例えば日米租税条約でも、「その他資産の譲渡」により発生した譲渡所得については、OECDモデル条約と同様に、その譲渡した人の居住地国での課税できるとなっています。

    つまりアメリカの居住者が、日本の株式を売却した場合、日本で確定申告する必要も、税金を支払う必要もありません。

    例外的な取扱い【その1】 事業譲渡類似株式

    非居住者が日本の法人の株式を売却しても、原則は非課税です。ただ一定の要件を満たす場合には、事業そのものを売却しているのと同じと考えて、日本でも申告義務があります。

    事業譲渡類似株式という制度で、租税条約によって定められています。国によってそれぞれで、日米租税条約だと非課税であっても、日本シンガポール租税条約は課税という制度です。

    なおこの場合の居住者ですが、個人だけではなく、法人の場合も含みます。

    したがって、シンガポールにいる人もしくは法人が、トヨタ・ソニーの株式を売却しても非課税が原則です。しかし自分たちがオーナーである会社の株を売却した場合には、日本でも確定申告の義務があるでしょう。

    日本シンガポール租税条約13条(譲渡収益)の4項(b)と5項の条文を以下に写経しました。

    シンガポールの場合には、特殊関係者を含めて25%以上保有している法人の株式を5%以上売却した場合には、日本でも課税権があると読みます(4項(b)。それ以外の場合には、課税がないよ(5項)と読みます。

    日本シンガポール租税条約13条(譲渡収益)の4項

    (b) 一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の株式の譲渡によって取得する収益に対しては、次のことを条件として、当該他方の締約国において租税を課すことができる。

    (i) 当該譲渡者が保有し又は所有する株式(当該譲渡者の特殊関係者が保有し又は所有する株式で当該譲渡者が保有し又は所有するものと合算されるものを含む)の数が、当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中のいかなる時点においても当該法人の株式の総数の少なくとも25%であること

    (ii) 当該譲渡者及びその特殊関係者が当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中に譲渡した株式の総数が、当該法人の株式の総数の少なくとも5%であること

    日本シンガポール租税条約13条(譲渡収益)の5項

    1から4までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者である締約国においてのみ租税を課すことができる。

    事業譲渡類似株式の事例

    2024年7月22日にニュースが出ました。Yahooでもトップで表示される大きなニュースでした。
    モナコは所得税ないけど 海外在住者、株売却益33億円無申告で追徴。

    モナコは所得税ないけど 海外在住者、株売却益33億円無申告で追徴

    モナコと日本の間には租税条約がなく、国内法に基づき課税されたようです。ただ情報交換協定はあって、モナコの銀行口座情報などを日本の税務当局が入手し、その情報に基づいて課税したのではないかと想像します。まさに事業譲渡類似株式の典型例だと言えるでしょう。

    ニュースの深読み

    この対象となった男性がモナコに移住したのが2014年の模様。これは出国税の回避のためと邪推します。出国税が開始されたのが2015年だからです。

    そして移住後に株式を売却して、譲渡益課税を逃れたつもりだったのでしょう。事業譲渡類似株式の制度を知らなかったとしたら残念ですね。租税条約上、事業譲渡類似株式の制度がない国に移住すべきでした。

    例外的な取扱い【その2】 事業譲渡類似株式の申告方法

    非居住者が事業譲渡類似株式の申告をする場合には、納税管理人を指定し、その納税管理人を通じて、法人税若しくは所得税の確定申告書を提出します。源泉徴収されるわけではありません。

    税率は15.315%です。住民税は非課税です(非居住者ながら住民票がある場合などは除きます)。

    例外的な取扱い【その3】 不動産化体株式

    OECDモデル条約では、居住者が相手国に保有する不動産の譲渡から得る所得については、その不動産の所在地国(相手国)で課税権があることを認めています。

    なおこの場合の居住者ですが、個人だけではなく、法人の場合も含みます。

    それを踏まえて、不動産がその価値のほとんどを占めるような会社の株式を譲渡した場合には、あたかも不動産そのものを譲渡したかの如く、不動産の譲渡を行った場合と同様の課税上の取り扱いをされることがほとんどです

    アメリカの場合、不動産の価値が50%を超える会社の株式を売却したときには、その居住国で課税されることになります。

    (ただし譲渡する株式と同じ種類の株式が日米租税条約第22条5に規定する有価証券市場において取引され、かつ所有するこの株式の持ち株数が、当該株式の発行総数の5%以下である場合は、本規定は適用対象外となります。)

    日米租税条約13条(譲渡収益)の条文を以下に写経しました。

    日米租税条約13条(譲渡収益)の1

    一方の締約国の居住者が他方の締約国内に存在する不動産の譲渡によって取得する収益に対しては、当 該他方の締約国において租税を課することができる。

    日米租税条約13条(譲渡収益)の2

    (a)一方の締約国の居住者が、他方の締約国の居住者である法人(その資産の価値の五十パーセント以上 が当該他方の締約国内に存在する不動産により直接又は間接に構成される法人に限る。)の株式その他同等の権利の譲渡によって取得する収益に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができ る。ただし、当該譲渡に係る株式と同じ種類の株式が第二十二条5 (b)に規定する公認の有価証券市場において取引され、かつ、当該一方の締約国の居住者及びその特殊関係者の所有する当該種類の株式の数が当該種類の株式の総数の五パーセント以下である場合は、この限りでない。

    (b)一方の締約国の居住者が組合、信託財産及び遺産の持分の譲渡によって取得する収益に対しては、これらの資産が他方の締約国内に存在する不動産から成る部分に限り、当該他方の締約国において租税を課することができる。

    最後に

    プロビタス税理士法人は、海外移住の相談を多く受けております。もしご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

    この記事の執筆者

    片山 康史

    税理士 / 中小企業診断士

    プロビタス税理士法人代表。 「自分の知識と経験で皆を幸せに」をモットーに、税務の問題を解決する情報を発信しています。外資系企業向けの国際税務が得意です。