はじめに
世界的なインフレと地政学リスクの増大を背景に、実物資産としての金・銀の価値が改めて上昇し続けています。2026年1月現在、金価格は過去最高値を記録。ポートフォリオの守りとして保有してきた地金や銀、プラチナなどのコモディティ資産に、多大な含み益が生じている方も多いことでしょう。
しかし、実物資産の運用において最も重要なのは「出口の設計」です。金・銀は、株式や不動産とは異なる独自の課税体系を持ちます。本日は、知っておくべき「金・銀・銅の税金(譲渡所得)」について解説いたします。
1. 総合課税における「保有期間」の戦略的意義
不動産や株式は分離課税ですが、金・銀の譲渡益は、確定申告においては他の所得と合算される「総合課税」の対象です。ここで戦略の鍵となるのが「5年」という保有期間の境界線です。
- 短期譲渡(保有5年以内):譲渡益の全額が課税対象。
- 長期譲渡(保有5年超):譲渡益の1/2のみが課税対象。
最高所得税率が適用される層にとって、課税対象が半分になるメリットは計り知れません。購入時期を精査し、5年を超えるタイミングまで売却をコントロールすることが、資産防衛の第一歩となります。
2. 年間50万円の控除と「複数年・分割売却」の合理性
金・銀の譲渡益には年間50万円の特別控除が付与されます。一見少額に思えますが、これを「時間軸で分散」させることで大きな効果を発揮します。
例えば、1,000万円の含み益がある場合、一度の売却では控除は1回のみですが、複数年にわたって分割売却を行うことで、毎年の控除枠を享受しながら、単年度の総合所得を抑え、適用される累進税率を一段階下げる(ブラケット・クリープの回避)ことが可能になります。
3. 相続における「起算点」と「取得費加算」の活用
相続によって承継した金・銀・銅などコモディティ商品の取り扱いには、二つの重要な視点があります。
- 取得時期の引き継ぎ:保有期間のカウントは被相続人の購入時から継続されます。先代が長期保有していたものであれば、即座に「長期譲渡」の恩恵を受けられます。
- 取得費加算の特例:相続税申告から3年以内の売却であれば、支払った相続税の一部を取得費として譲渡益から差し引くことが可能です。納税資金の確保とタックスメリットを両立させる有効な手段となります。
純金積立の計算合理性
純金積立を行っている場合、その保有期間の判定は**「先入れ先出し法(FIFO)」**に準じることが国税庁により認められています(平成20年5月21日裁決等)。過去からの積み立て分を優先的に「長期」として売却できるため、計算の精緻化が求められます。ただSBI証券や楽天証券で口座を有していれば、そのようなネット証券で譲渡益を適切に計算してくれるのではないかと思っています。(私も純金積み立てしていますが、売却したことがないため、その点は不明です) (参照:国税庁 文書回答事例)
4. 資産評価の特性:相続対策における留意点
不動産のような「評価圧縮」の効果が金・銀にはありません。時価がそのまま相続税評価額となるため、純粋な相続税対策(減税)としては機能しません。あくまで「通貨価値の下落に対するヘッジ」および「匿名性の高い資産(※200万円超の売却を除く)」としての性質を理解した運用が求められます。
5. 小額だったら確定申告しなくても良いか?
良くいただく質問を掲載します。
質問 譲渡益が20万円以下だったのですが、確定申告しなくても良いですか?
回答
会社員(給与を1か所から受けている人)の場合、副業などの「給与所得・退職所得以外の所得」の合計が年間20万円以下なら、所得税の確定申告は原則不要です(「20万円ルール」)。そうであっても年収が2000万円を超えているなどであれば、20万円以下であったとしても確定申告は必要です。
質問 譲渡益が50万円以下だったのですが、確定申告しなくても良いですか?
回答
いいえ、確定申告してください。質問の背景としては総合課税の特別控除の50万円を意識されたことだと思います。しかし税務当局は確定申告をしないと、譲渡益が50万円以下だったかどうかがわかりません。確定申告により50万円以下であることを申告してください。そうでないと無申告の方と一緒になってしまいます。
質問 確定申告はe-taxで行うことはできますか?
回答 はい、できます。そして特に添付書類も不要です。
6. コンプライアンスと透明性
現在、1回200万円を超える貴金属の売却には、業者による「支払調書」の提出が義務付けられています。住所、氏名、マイナンバーが税務当局へ共有されるため、無申告は論外であり、極めて高い透明性が求められるスキームです。 富裕層にとっては、不透明なスキームを追うよりも、法に基づいた「分割売却」や「長期保有」による適正なタックス・プランニングこそが、真に資産を守る道となります。
結びに代えて
「有事の金」は、持つこと自体が目的ではありません。世界情勢が不透明な今こそ、その出口をどうデザインするかが問われています。私自身も一投資家として保有しておりますが、売却のタイミング一つで最終的な手残り額は大きく変動します。 次世代への承継も見据え、最適なタイミングでの利益確定をご検討ください。





