事業承継は、いろんな方の利害関係がからんで、うまく進まないケースを散見します。原因は様々ですが、”黄金株を持っていれば…”というケースを見ました。
黄金株というのは非常に強力な力を持つため、常に有効な手段ではありませんが、使い方によっては強力な力を発揮します。黄金株とは何か?をご紹介いたします。
株式とは?
株式には、おおきく3つの権利があると言われています。
(1)株主総会に参加して議決に加わる権利(議決権)
(2)配当金などの利益分配を受け取る権利(利益配当請求権)
(3)会社の解散時に、残った会社の資産を分配して受け取る権利(残余財産分配請求権)
株主の権利は上の3つで、持分比率に応じてその権利を行使できます。
しかし、その持分比率とは関係なく、権利が行使できるようにする株式があります。それを種類株式と言います。(本ブログは、税理士が書いているものですので、種類株式の詳細な説明は割愛します)
- 剰余金の配当規定(1号)
- 残余財産の分配規定(2号)
- 議決権制限規定(3号)
- 譲渡制限規定(4号)
- 取得請求権規定(5号)
- 取得条項規定(6号)
- 全部取得条項規定(7号)
- 拒否権規定(8号)
- 役員選任権規定(9号)
種類株式の一つが“拒否権付き種類株式 いわゆる黄金株”になります。
黄金株の具体的な説明
黄金株は非常に強力な力を持ちます。株主総会で決めることのうち、以下のことなどを拒否することができます。拒否する内容は定款において自由に決定することができます。
- 取締役・監査役の選任・解任
- 特定事項に係る定款変更
- 重要な財産の全部または一部の処分
- 吸収合併等の組織再編行為
- 募集株式の発行
- 新株予約権の発行
- 資本金の額の減少
- 解散
例えば株主総会で取締役を解任されたとしても、黄金株を持っている人はその決議を拒否することができるのです。非常に強大な力を得ることができます。
したがって、拒否する内容を何にするかは慎重に検討する必要があります。
黄金株の株価
それでは、その黄金株の株価はいくらになるのでしょうか?非常に強大な力を持っていますので、株価は高くなりそうです。しかし相続税財産評価通達によると特別な評価方法はありませんので、通常の株式と同じように評価します。
つまり相続税法上は、黄金株と普通株式は同じ値段ということができます。不思議ですが、評価のしようがないというのもまた事実かもしれません。
発行時の注意点
黄金株の具体的な発行方法については、司法書士の先生などに確認をしてください。
ただ黄金株を保有している先代が亡くなったときに、会社にとって好ましくない株主人がこの黄金株を相続してしまうことも想定されます。黄金株は強力な株式ですので、この事態は何があっても避けなければなりません。
したがって、黄金株を発行するときには、黄金株の株主が死亡したことを条件として、会社が黄金株式を取得できることを定めた「取得条項付株式」にしておいた方が良いと聞きます。
事業承継時になぜ有効なのか
事業承継は株式を後継者に取得させることで経営権を譲渡するものですが、引退する経営者にとっていきなり後継者に会社の経営権を丸ごと渡すことは不安にも感じられるものです。
前任の経営者でも株式を全て後継者に取得させてしまった場合だと権限はなくなってしまいますし、たとえいくつかの株式を保有していたとしても、後継者が過半数の株式を持っていれば後継者の決定を覆すことはできなくなります。
そんな時に役立つのが黄金株です。
黄金株は株主総会の決定を覆せるだけの強力な拒否権が付加されているため、ほとんどの株式を後継者に渡していたとしても、先代の経営者が黄金株を持っていれば、黄金株の拒否権を行使することで後継者の経営にブレーキをかけることができます。
その意味では黄金株を所有することは先代の経営者に会社の経営権を残しておくことだといえます。
一般的には後継者に株式の譲渡を行いながら、黄金株を発行して先代の経営者が所有しておくという形式が取られます。
後継者に経験を積ませる意味合いを含めて自主的な経営を行わせるのですが、万が一後継者が誤った判断をした際の予防線として黄金株を使うことがが可能になります。