
事業承継を検討されている方へ。 新しくなった事業承継税制を徹底解説!
社長が高齢になったことにより、後継者に事業を承継する。でも、その時にはいろんな問題があります。その一つが、社長が保有している会社の株式をどうするか?という問題。会社の株式を社長から後継者に移すときには、税金がかかります。でも、後継者にはお金がないのが一般的。お金がないから、株式を移せないという問題があります。 2018年の税制改正で、新しい事業承継税制が導入されました。その税制を使えば、税金を払うことなく、会社の株式を社長から後継者に移すことができるようになりました。しかしその特例を受けるためには、注意しなければならないことがたくさんあります。新しくなった事業承継税制を徹底解説します!目次
- Q01.事業承継税制の概要を教えてください
- Q02.新事業承継税制の適用を受けるためには、いつ何をしなければなりませんか?
- Q03.新事業承継税制の適用を受けるために大事なことを教えてください
- Q04.認定の対象となる会社の要件を教えてください
- Q05.先代経営者は株式を一括で100%贈与する必要があるのでしょうか?
- Q06.新事業承継税制の認定を受けるうえで、確認すべきポイントを教えてください
- Q07.不動産投資物件をもっているのですが、資産保有会社とは何でしょうか?
- Q08.株式投資を行っているのですが、資産運用会社とは何でしょうか?
- Q09.資産保有会社や資産運用会社になると新事業承継税制の適用をうけられないのでしょうか?
- Q10.まとめ
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Q01.平成30年(2018年)の4月から非上場株式の贈与税および相続税の納税猶予が改正され、大幅に緩和されたと聞きました。この納税猶予の制度を使うと、贈与税や相続税がかからずに、株式を後継者に渡すことができるのでしょうか?新しくなった事業承継税制の概要を教えてください。
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A01.“事業承継対策をせずに放置していると、いざ事業承継という時に、相続をめぐってもめごとが起きる、経営者が経営ノウハウを知らない、取引先・従業員の信頼を得られない、といった問題が生じ、最悪の場合、廃業に至ってしまいます。そのようなことにならないためにも、事前に後継者の候補を見つけ、その後継者を育成し、徐々に経営権を移していくとった計画的な取組が必要です”。 これは平成20年(2008年)に成立した経営承継円滑化法の前書きです。 2008年の前から、日本政府は事業承継を促進するための取り組みを続けてきました。しかしその効果は薄く、2008年から状況は変わっていないという印象です。 そこで、平成30年度(2018年)の税制改正で、画期的な制度が導入されました。新しい事業承継税制、特例事業承継税制です。特例事業承継税制(新事業承継税制)の適用を受けると、先代経営者から後継者に非上場株式を贈与する際に課税されるべき贈与税が猶予されます。その後、先代経営者に相続が発生した場合には、贈与時に猶予された贈与税は、相続税においても猶予されます。一定の手続きにより、半永久的に課税が猶予される仕組みになっています。 新事業承継税制の適用を受けることにより、贈与税や相続税を支払うことなく、先代経営者から後継者に非上場株式を移すことができるようになりました。非常に画期的な制度になっています。
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Q02.新事業承継税制の適用を受けるためには、いつ何をしなければなりませんか?
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A02.はい。大きく2つのポイントがあります。まず2023年3月31日までに、会社が認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて作成した”特例承継計画”を作成して都道府県庁に提出し、確認書の交付を受けます。 特例承継計画書を提出してから、2027年12月31日までに、やるべきことは大きく2つです。 ・先代経営者が代表を退いた後に、後継者が代表に就任します。 ・株式を後継者に一括で贈与します。 贈与した年の翌年1月15日までに会社は都道府県等に対して認定申請をして、認定書の交付を受けます。後継者が、翌年3月15日までに贈与税の確定申告をします。 先代経営者に相続が発生すると、相続開始の日から8か月以内に都道府県庁に対して切替の申請をします(贈与→相続)。この時に、猶予されていた贈与税は免除され、相続税を猶予してもらうための手続きが始まります。
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Q03.新事業承継税制の適用を受けるために大事なことを教えてください
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A03.新事業承継税制は非常に複雑です。最低限押さえておくべきポイントは以下の通りです。
- (1) 特例承継計画の作成/提出 2023年3月31日までに、都道府県庁に特例承継計画を提出することが最低限必要です。ただ、2023年3月31日までの間で、もし特例承継計画を提出する前に、先代経営者が死亡した場合には、死亡後に特例承継計画を出すことも認められます。
- (2) 先代経営者が代表から退くこと 先代経営者は代表者であった必要があります。そして先代経営者は、贈与のタイミングで代表権を返上する必要があります。あくまでポイントは代表権を返上することにあり、会社を辞める必要はありません。代表権のない役員や従業員として残ることは禁止されていません。
- (3) 先代経営者の株式保有数の要件 先代経営者とその親族などの同族関係者で、総議決権の過半数を保有している必要があります。また先代経営者が株主の中で筆頭株主であった必要はあります。
- (4) 先代経営者などが一括で株式を贈与 先代経営者は一括で株式を贈与する必要があります。ただし100%である必要はありませんが、100%を一括で贈与するのは望ましいと考えます。
- (5) 後継者の要件(20歳以上など) 後継者は贈与を受ける時点で、代表者である必要があります。また20歳以上で、3年以上役員であった必要があります。 なお、後継者は先代経営者の親族である必要はありません。親族外の方、たとえばその会社の役員/従業員であっても対象になります。ただ個人的には、この制度においては親族の方が望ましいと考えています。
- (6) 相続税について 相続税も贈与税の制度と同じ形になります。ただひとつ注意点として、先代経営者は相続発生時点で役員である必要があります。
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Q04.認定の対象となる会社の要件を教えてください
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A04.対象となる会社は、中小企業基本法上の中小企業である必要があります。もちろん上場している会社は対象になりません。 また対象となる会社は株式会社、特例有限会社、合同会社、合同会社、合資会社、農業生産法人に限られます。医療法人やNPO法人、私どものような税理士法人は対象になりません。 性風俗営業会社も適用対象とはなりません。あくまで性風俗が対象ですので、パチンコやバーなどは対象の会社となることもあります。 また認定を受けた会社の子会社も対象とはなりません。
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Q05.先代経営者は株式を一括で100%贈与する必要があるのでしょうか?
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A05.いいえ、その必要はありません。後継者がすでに保有している株式と合わせて3分の2に達するまでの株式を一括で贈与すればよいことになっています。残りの株式は納税猶予の対象とはなりません。 理想はすべての株式を一括で贈与することです。しかしながら、一定の経営権を保有しておきたい、金融機関からの要請があるなどという場合には、3分の1未満の株式を保有しておくということも可能です。
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Q06.新事業承継税制の認定を受けるうえで、確認すべきポイントを教えてください
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A06.はい。A4では以下のポイントがありました。
- 上場していないこと
- 中小企業基本法上の中小企業であること
- 株式会社、特例有限会社、合同会社、合同会社、合資会社、農業生産法人であること
- 性風俗営業会社ではないこと
- 認定を受けた会社の子会社ではないこと
- 総収入金額がゼロを超えること
- 常時使用する従業員の数が1名以上であること
- 拒否権付き種類株式(黄金株)を発行している場合には、黄金株を先代経営者が保有していないこと
- 常時使用する従業員の8割以上を維持すること
- 資産保有会社に該当しないこと
- 資産運用会社に該当しないこと
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Q07.資産保有会社とは何でしょうか?
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A07.資産の帳簿価格の総額に占める特定資産の割合が70%以上である会社をいいます。 特定資産とは以下のものがあります。
- 有価証券、その他の出資・持分
- 不動産のうち、自らが使用していないもの
- ゴルフ会員権、スポーツクラブ会員権、リゾート会員権など
- 美術品、骨とう品、貴金属、宝石など
- 現預金
- 資産運用会社とは何でしょうか?
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A08.その事業年度の総収入金額に占める以下のものの収入が75%以上である会社をいいます
- 特定資産である有価証券の配当金
- 受取利息
- 受取家賃
- 特定資産の譲渡の額
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Q09.資産管理会社や資産運用会社に該当すると特例承継税制(新事業承継税制)の適用を受けることができないのですか?
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A09.いいえ。以下の条件を満たすことにより、資産管理会社や資産運用会社であっても特例承継税制(新事業承継税制)の適用を受けることができます。
- 3年以上継続して事業を行っていること
- 事務所、店舗、工場などの、事業を行うための固定資産を有していること
- 常時使用する従業員数が5人以上いること
- 自らが営業行為を行っていること
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Q10.まとめ
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A10.改正された新しい事業承継税制は、”アメとムチ”の制度です。莫大な贈与税と相続税が免除されるという画期的な制度です。その反面、その免除を受けるためには非常に複雑な要件と手続きが必要になります。 新事業承継税制の適用を受けるためには、事前に入念な確認を行う必要があります。税務署や顧問の税理士との検証が必須になるでしょう。