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“パンドラ文書”のニュースを国際税務の観点から説明するぞ

2021年10月にニュースのあったパンドラ文書。各国政府高官がタックスヘイブン国にある法人に租税回避していたことが問題になりました。でも日本の高官は見当たらないそうです。その理由を日本の税制(国際税務)の観点から考えてみました。
目次
汚職撲滅を訴えたヨルダンのアブドラ国王や格差是正のための税制改正を主張した英国のブレア元首相らが、タックスヘイブン(租税回避地)を使って税逃れや財産隠しを図っていた実態が明らかになりました。
 
 回避地の内幕を暴いた「パナマ文書」報道から5年。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、新たに入手した文書に基づく取材成果を公表した。その文書のことを「パンドラ文書」は呼ばれています。
 
 租税回避地とのつながりが判明した政治家や政府高官は91カ国・地域の330人を超えるとのことです。ただし日本の政治家の名前は現段階では見当たらないとのこと。
BBCのニュースからの引用です。
 
「パンドラ文書」は、国境を越えて構築された複雑な会社ネットワークの存在を明らかにし、隠し財産も見つかった。これまでに以下が明らかになった。
 
  • イギリスの不動産1500軒超がオフショア企業を通じた購入であることが判明。こうした不動産の所有者には、汚職疑惑のある個人も含まれていた
  • カタールの首長一族が、ロンドンの高級住宅をめぐり1850万ポンド(約28憶円)を脱税していた
  • イギリスの実業家サー・フィリップ・グリーン夫妻が、経営破綻したブリティッシュ・ホーム・ストアを売却した後、高級不動産を買い占めていた
  • 英保守党の著名な資金支援者が、ヨーロッパ最大規模の汚職スキャンダルに関わっていた
  • ヨルダン国王が、ひそかに所有していた会社を通して、イギリスとアメリカの不動産購入に7000万ポンド(約105億円)を使った
  • アゼルバイジャン大統領の家族が、4億ポンド以上の価値があるイギリスの不動産の取引にひそかに関わっていた
  • チェコ首相が、フランスの邸宅2軒を1200万ポンドで購入した際に利用したオフショア投資会社について、その存在を公表していなかった
  • ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領の家族が、オフショア会社のネットワークを数十年にわたってひそかに所有していた
  • このほか、世界の有力者(90カ国の330人を超える政治家など)がどのようにして、国外の会社を使って資産を隠していたかも判明した。
これもBBCのニュースからの引用です。
 
例えば、イギリスで不動産をもっているが、外国に本拠地を置くいくつかの会社を通して所有しているとき、それらの会社は「オフショア」と呼ばれる。
オフショア会社のある国や地域の特徴は次のとおり。
  • 会社を簡単に設立できる
  • 会社所有者の特定を困難にする法律がある
  • 法人税が低いか存在しない
  • それらの土地は「タックスヘイブン(租税回避地)」と呼ばれることも多い。タックスヘイブンに明確なリストはないが、よく知られているものに、英領のケイマン諸島やヴァージン諸島、スイス、シンガポールなどがある。
このようなオフショアにある法人は、日本においてはタックスヘイブン税制の適用対象になります。
 
タックスヘイブン対策税制とは、わが国の内国法人等が事業上の合理性がないにもかかわらず、租税負担の軽い国や地域に所在する子会社等を通じて事業を行うことにより租税回避を図る行為を規制するための制度です。
 
2017年度税制改正によって、タックスヘイブン対策税制はこれまでより複雑になり、適用範囲も広がりました。租税負担割合が30%未満の外国関係会社については、当該外国関係会社がペーパーカンパニー、事実上のキャッシュボックス、またはブラックリスト国所在会社のいずれかに該当する場合、その全ての所得が合算課税の対象となります。また、租税負担割合が20%未満の外国関係会社については、経済活動基準を満たす外国関係会社は、会社単位の合算課税は適用されませんが、配当、利子等の一定の受動的所得がある場合には、それらの所得が部分合算課税の対象となります。
 
残念ながらタックスヘイブン税制の適用対象になってしまうと、その利益に対して日本から課税されてしまうというイメージになります。タックスヘイブンにある口座にお金を貯めこんでいたとしても、日本の課税当局に存在を認識された時点で、日本と同じ税率により課税されてしまうと考えてもよいでしょう。
 
他の先進国でもタックスヘイブン税制はあります。でも日本は改正に改正を重ねて、幅広く多くの海外関連会社を対象にすることによって、抜け道をなくしてきています。
「海外に法人は持っておらず、銀行口座を持っているだけなので、タックスヘイブン税制は関係ない」とおっしゃっているのを聞いたことがあります。しかし海外銀行口座の情報も、日本の国税庁に筒抜けになっている可能性があるのです。
 
皆さん「CRS」という言葉をご存知でしょうか?
 
「CRS」という制度は、脱税や租税回避に対処するため運用されている国際基準です。
 
金融機関はこの制度に基づき、顧客情報を把握して国税当局に報告し、各国間でこの情報を国際的に共有しています。
CRS:Common Reporting Standardとは、金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準」です。
 
このため金融機関は、特定の非居住者の金融口座情報を税務署に報告し、報告された金融口座情報は、租税条約等の情報交換規定に基づき、各国税務当局と自動的に交換されることとなります。
 
海外の税務当局は、所有している個人情報・法人情報(氏名、名称、住所等、納税者番号など)と収入に関する情報(利子配当譲渡収入など)、また口座番号やその口座に所有している預金や有価証券等の残高を日本の国税庁に提供します。
 
逆に、日本の国税庁からは、上記と同様の情報が海外の税務当局に提供されます。
この情報交換は2018年から始まってます。
 
二国間租税条約等及び執行共助条約を合わせると、令和元年 12 月1日現在、我が国の情報交換ネットワークは 135 か国・地域をカバーするものとなっています。タックスヘイブンで有名なケイマン諸島やバミューダ諸島なども含まれています。
国外財産調書制度は、富裕層に対して海外資産の内容を税務署に届け出るよう求める制度です。 海外に保有する資産に対して適切に課税することが目的で、平成26年(2014年)1月から施行されています。 国外財産調書制度の導入により、国内の納税者が海外で保有する資産について課税が強化されるようになりました。
 
国外に5,000万円を超える財産(預金、有価証券や不動産など)を持つ日本国内の居住者に、その内容を記した国外財産調書の提出を義務づける制度です。2014年度から始まり、現金預金、不動産、有価証券、骨董品や貴金属類まで、その年の年末時点で国外にあるすべての財産が対象となります。翌年3月15日までに税務署に提出しなければなりません。
 
国税庁は確定申告書や国外財産調書と先ほど紹介したCSRの情報を照らし合わせる作業を進めていると言われています。
財産債務調書制度とは、適正な課税の確保のため、一定基準以上の資産を持つ人に、その保有財産や債務を記載した書類の提出を義務付ける制度で、2015年度税制改正で創設されました。対象は所得税などの確定申告をする必要がある人で、その年の所得金額が2,000万円を超え、かつ年末時点での財産価額が3億円以上、または有価証券などの資産価額が1億円以上ある人。財産の種類、数量、価額、債務の金額とともに、財産の所在、有価証券の銘柄や取得価格などの事項を掲載した調書を、翌年3月15日までに税務署に提出しなければなりません。
 
財産債務調書や国外財産調書の制度については、不提出については罰則規定が設けられています。富裕層の資産についてはガラス張りになってきています。
今回のパンドラ文書の報道において、日本の有名人がリストになかったこともあって、日本では大きなニュースにはなっていないようです。なぜ日本人がパンドラ文書のリストになかったのかを考えてみました。
 
この数年のタックスヘイブン税制の強化、および国外財産調書制度の整備など富裕層に対する情報公開の強化などがありました。タックスヘイブンなどのオフシュアに資産を回避しても見つかってしまう、というのが日本国内で浸透してきているのかもしれません。
 
しかしながら日本ではオフシュアに口座を作って資産管理をしてくれるプライベートバンカーの方が海外に比べて少ないというのはあるのかもしれません。また日本において海外も含めたタックスプランニングを考えてくれる人が少ないというのもあるでしょう。
 
個人的に思いますのは、適正に税金を支払っている限りにおいては、海外に口座を有するのは悪いことではありません。むしろ超低金利である日本に口座を保有しているよりは、海外で運用したほうが、資産形成という観点では良いと思っています。どんどん円安とデフレが進む日本において、円の資産しか有していないというのは、むしろ問題だと思っています。
 
今回のパンドラ文書において、日本人がリストになかったというのを聞いて、富裕層も含めて資産運用がされていないのだなと思って、一抹の残念な気持ちがあったのも事実です。
 
最後に 「海外にある法人や銀行口座の情報は、日本の国税庁には筒抜けですよ!隠さないで申告したほうが良いですよ!」ということをお伝えしたいです。
 
どのように申告したらよいか?についてはお気軽にお問い合わせください。ご相談に対応いたします。
(2021年10月)

この記事の執筆者

片山 康史

税理士 / 中小企業診断士

プロビタス税理士法人代表。 「自分の知識と経験で皆を幸せに」をモットーに、税務の問題を解決する情報を発信しています。外資系企業向けの国際税務が得意です。