家族が海外赴任中に日本で相続が発生した場合、思わぬ「税金の罠」が待ち構えていることがあります。それが「国外転出時課税(いわゆる出国税)」の相続への適用です。
今回は、アメリカ赴任中のAさんの事例をもとに、注意すべきポイントをプロの視点で解説します。
ケーススタディ:アメリカ赴任中のAさんの場合
- 状況: Aさんは3年前からアメリカに出向中で、今後も2年以上は滞在予定(税法上の「非居住者」)。
- 出来事: 日本に住む父が逝去。父は1億円以上の有価証券(株式など)を保有していた。
- 悩み: 相続の手続きを始めようとしたところ、税理士から「お父様に所得税がかかるかもしれない」と言われた。
結論:相続人が「非居住者」なら、亡くなった人に所得税がかかる
通常、株を相続してもその時点では所得税はかかりません。しかし、以下の条件を満たすと**「出国税」**という特殊なルールが発動します。
- 亡くなった人(被相続人): 1億円以上の対象資産(株・投資信託など)を持っている
- 引き継ぐ人(相続人): 日本国外に住んでいる(非居住者)
この場合、「お父様が亡くなった瞬間に、持っていた株をすべて時価で売却した」とみなされます。その含み益(キャピタルゲイン)に対して、亡くなったお父様の所得税が課税されるのです。
期限はわずか「4か月」!準確定申告の壁
この出国税は、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に「準確定申告」を行い、納税しなければなりません。
遺産分割が終わっていない場合はどうなる?
- 4か月以内に分割が決まった場合: 海外に住むAさんが取得した分に対して課税されます。
- 決まっていない場合: いったん「法定相続分」で分けたと仮定して、Aさんの持ち分に対して課税されます。
いずれにせよ、4か月という極めて短い期間で税額を確定させ、納税(または納税猶予の手続き)を行う必要があります。
納税した「出国税」は相続税から引ける?
準確定申告で支払った所得税は、相続税の計算において「債務控除(マイナスの資産)」として差し引くことができます。
ただし、「納税猶予」の制度を利用して支払いを先延ばしにした場合は、現時点で支払うべき債務ではないとみなされ、相続税の債務控除は受けられないという点に注意が必要です。
プロビタス税理士法人からのコメント:
「実質的に無理」と言わざるを得ないほど過酷なスケジュール
制度の理屈はシンプルですが、実務の現場では「非常に困難なミッション」です。
- 把握だけで時間が溶ける: 突然の不幸のあと、4か月以内にすべての証券口座を特定し、残高証明書を取り寄せるだけで1〜2か月はかかります。
- 評価が難しい: 銘柄が非上場株式であれば、そこから相続税財産評価通達による時価評価(株価算定)を行う必要があり、さらに時間はタイトになります。
- 納税猶予のハードル: 「お金がないから猶予してほしい」と思っても、納税管理人の選任や「担保」の提供が必要です。この担保資料を揃えるだけでも膨大な手間がかかります。
ご家族が海外にいる状況で、1億円以上の資産を持つ方が亡くなった場合、この出国税を回避・対応するのは時間との戦いです。少しでも心当たりのある方は、一日も早く国際税務に精通した専門家へ相談されることを強くお勧めします。プロビタス税理士法人は国際相続に取り組んでいます。ご不明な点がございましたら、何なりとお申し付けください。
出国税についてはこちらもご確認ください。






