はじめに
2023年8月時点、コロナ後のインバウンド需要回復によって、多くの外国人が来日しています。コロナの間は民泊は壊滅的なダメージを受けました。でもコロナが明けて、街中に外国人をよく見かけるようにしなりました。民泊のニーズもまた復活しているはずです。
筆者である片山も、昔一時期民泊を運営していた時期がありました。私がエアビーしていた物件は、蒲田と池袋でした。結果としては、うまくいかず2年ほどで撤退しました。うまくいかなかった理由は色々あったはずですが、一言でいうとセンスがなかったんだと思います。でも民泊に対しては理解があるつもりです。そこで民泊ホスト経験者の税理士が解説する民泊ホスト向け確定申告解説です。
民泊を始めるにあたり絶対にすべきこと
まずは物件のオーナーに、エアビーをやるということを伝えないといけません。オーナーに黙ってエアビーをやった場合にはどうなるでしょうか?
民法612条にて、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができないとされています。ただ一度承諾をとってしまえば、あとで拒否することは難しいとされています(昭和30年5月13日判決)
かりに賃借人は賃貸人の承諾を得ないで、エアビーをやった場合にはどうなるでしょうか?賃貸人は契約の解除をすることができるとなっています。条件としては、「背信的な行為と認められる場合」とされていて、本当に解除されてしまうかどうかは弁護士に相談する必要があります。ただ解除されるリスクがあるのであれば、事前に賃貸人の承諾は得ておくべきだと考えます。もし私が不動産オーナーであれば、分かった時点ですぐに解約します。
民泊新法(住宅宿泊事業法)についてしっかり理解しておこう
- 住宅宿泊事業法の概要
住宅宿泊事業とは、住宅内で宿泊客に宿泊を提供する事業です。都道府県知事への届出を行えば、旅館業法の許可を得ることなく、事業を行うことができます。
なお宿泊を提供する日数が1年間で180日が上限になります。必要があれば都道府県知事はその期間を短縮することができます。
住宅宿泊事業者は①宿泊者の衛生の確保、②宿泊者の安全の確保、③外国人環境旅客である宿泊者の快適性および利便性の確保④宿泊者名簿の備え付け、⑤周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項の説明、⑥苦情への対応を講じる必要があります。
そして①届出住宅の居室数が5を超えるとき、②届出住所に人を宿泊させる間、不在となる時(家主不在型)の場合には、住宅管理業務を住宅宿泊管理業者に委託しないといけません。そして複数の住宅宿泊管理業者を利用することも認められておらず、一つの業者に外注しないといけません。
2. 民泊新法が定義する住宅とは
住宅とは、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当する家屋を言います
(1)その家屋内に台所、浴槽、便所、洗面設備その他のその家屋を生活の本拠として使用するために必要なものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める施設が設けられていること
(2)現に人の生活の本拠として使用されている家屋、従前の入居者の賃貸借の期間の終了後新たな入居者の募集が行われている家屋その他の家屋であって、人の居住の用に供されるものとして国土交通省令・厚生労働省令で定めるものに該当すること
3. 住宅宿泊事業とは
旅館業法に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人の宿泊させる日数として国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算出した日数が一年間で180日を超えないものをいいます。
4 法人の場合の届出等
都道府県知事に住宅宿泊事業を営む旨の届出をした者は、旅館業の規定にかかわらず、住宅宿泊事業を営むことができます。法人であっても登録をすることができますが、法人の場合には、商号、住所、役員の使命を都道府県知事に届け出なければなりません。
民泊の所得区分について(個人の名義で民泊をされている方向け)
まずは個人の名義で民泊をされている方向けの内容です。
個人事業主として収入を得た場合には確定申告が必要になります。所得税の確定申告になります。
1月1日から12月31日までの収入と経費を集計し、その結果として出た利益(”所得”と言います)を、翌年3月15日までに税務署に申告をします。
所得税の確定申告において、所得をまず最初に10種類に分類しなければなりません。
民泊の所得について、分類に悩むのは、10種類のうち以下の3つだと思います。
・不動産所得
・事業所得
・雑所得
このうち、不動産所得に分類される可能性は低いと考えます。
不動産所得というのは、物件の貸付などによって生じる所得をいい、事業所得とされるものを除くとされています。
民泊の考え方を上記に解説しました。読んでいただければわかりますが、不動産の又貸しやサブリースではありません。民泊は、民泊新法後、実質的には旅館業に近いものであり、宿泊者に様々なサービス提供が義務付けられています。そのようなサービス提供が必要な事業は、事業所得もしくは雑所得に分類されると考えます。
弊社では、民泊による所得はすべて事業所得または雑所得として対応しております。
民泊の所得分類について 事業所得か雑所得?
事業所得と雑所得を比べた場合、事業所得の方がメリットが多いです。問い合わせされる方はほぼすべて「事業所得として申告したい」と希望されます。具体的なメリットは以下の通りです。
・赤字が出た場合に給与所得などと相殺可能
・青色申告が可能(青色申告特別控除や、赤字の繰り越し、青色事業専従者(身内への給与が経費とできる制度))
デメリットは個人事業税がかかる可能性があるということでしょうか。
したがって、できれば事業所得として申告したいと考えるはずです。ただ事業所得として申告するためにはハードルがあります。
難しい話ですが、事業所得に分類されるためには、その事業が独立・継続・反復して行われている必要があります。
明確な基準があるわけではありませんが、個人的な見解としては、民泊の所得だけで、ある程度の生活ができる規模の場合には事業所得になると思います。例えば民泊の所得(利益)で年間1000万以上あるのなら、事業所得でよいと思います。
もし会社員の副業として行われていて、運営などは業者に丸投げ、と言った場合には雑所得になるでしょう。我々の判断基準としては、「民泊を行うになってどれくらいのリスクを背負っているか?」で考えています。そして多くの場合は雑所得に分類されると思ってます。雑所得として分類される限りは、節税にはなりません!
民泊(Airbnb)を法人名義で行っている場合
いままでは個人事業主として民泊をしていることを前提としていました。もし法人名義でエアビーに登録し、法人名義で不動産を借りている場合ではこの限りではありません。すべての収入と経費を法人税申告書の中で申告することになります。
なお以前問い合わせがあった件です。Airbnbは法人名義で行っているけど、不動産は個人で借りているということがありました。個人から法人にサブリースする必要があるのですが、非常に煩雑でリスクもありますので、できる限り辞めたほうが良いです。不動産賃貸契約の変更を強くお勧めしました。
民泊収入があったのに無申告であった場合
まずは確定申告の義務があるとわかった時点で、自主的に早急に確定申告をすべきです。
なぜならペナルティの額が全然違うからです。ペナルティとしては無申告加算税と延滞税がありますが、無申告加算税に関する額が異なってきます。
その年に納付すべき税額の50万円までの部分に対しては15%、50万円を超える部分には20%が原則です。
ただし自主的に申告した場合には、無申告加算税の税率が5%に抑えられます。負担が全然違います。
さらに、以下に該当する場合には、無申告加算税がゼロになります。
・期限後申告を法定の申告期限から1ヶ月以内に自主的に済ませていること
・期限後申告に関わる税額を期限内に全額納付していること
・過去5年間で無申告加算税や重加算税を課税されたことがないこと
申告を忘れてしまったなどと言った場合には、悪質性がないので税務署も優しく対応してくれます。
したがって、無申告であることを気づいたときには、早急に自主的に確定申告と納税をすべきです。
民泊における”必要経費”とは
税金は所得に対してかかります。所得は以下によって計算されます。
所得 = 収入 – 必要経費
収入はエアビー(Airbnb)のシステムで容易に把握できるはずです。
もしかしたら税務署もすべて把握しているかもしれません。
問題は必要経費ですね。必要経費とは”収入を得るために必要な支出”とだけ定義されています。具体例などはありません。
したがって、民泊を行うになって必要になった支出を必要経費として申告することになります。
必要経費の具体的には以下が考えられます。
・毎月の賃料
・礼金
・物件を借りる際の仲介手数料
・エアビー(Airbnb)に徴収される手数料
・(管理を外注している場合)管理手数料
・民泊新法の許可を取るための行政書士報酬
・水道光熱費
・電話代やWi-Fi代
・現地に行くための旅費交通費
・清掃代や備品(シーツやトイレットペーパーなど)
・内装代
なお民泊として一番一般的なのは住宅宿泊事業法(年間営業日数180日以内など)で、その住宅宿泊事業法を想定しています。ただ民泊特区(東京都大田区など)で認定を受けた特区民泊や昔ながらの旅館業法簡易宿泊所も、税務の考え方は同じです。
経費の勘定科目
確定申告に不慣れな方であれば、勘定科目にも悩まれると思います。
我々プロでも勘定科目に悩むことはあって、税務の観点から見れば正解はないです。
大事なことは、毎年同じ勘定科目を使い続けることだと考えます。
<勘定科目:地代家賃>
・毎月の賃料
・礼金
<勘定科目:支払手数料>
・物件を借りる際の仲介手数料
・エアビー(Airbnb)に徴収される手数料
・(管理を外注している場合)管理手数料
・民泊新法の許可を取るための行政書士報酬
<勘定科目:水道光熱費>
・水道光熱費
<勘定科目:通信費>
・電話代やWi-Fi代
<勘定科目:旅費交通費>
・現地に行くための旅費交通費
<勘定科目:消耗品費>
・清掃代や備品(シーツやトイレットペーパーなど)
・内装代
経費にならない支出、もしくは減価償却が必要なもの
経費にならない代表的なものは以下のものです。
・敷金
・借入金の返済元本(借りた金を返しているだけなので、利益に影響はありません。利子は経費になります。)
・所得税や住民税など支払った税金(個人事業税だけは経費になります)
その他、内装代のうち、単価が10万円以上のものも要注意です。なお10万円は、免税事業者の場合には税込で判断します。
単価が10万円以上のものは、その年の経費になるのではなく、一旦資産計上して減価償却をすることになります。
なお事業所得で青色申告をしている場合には、10万円ではなく30万円になります。経費にできる基準が上がり、範囲が広くなります。
Airbnbでツアー・アクティビティを提供している方
Airbnbは宿泊だけではありません。現地発のツアーやアクティビティも提供することができます。
弊社のお客様でも、Airbnbを通じてツアーを提供している方がいますが、「半年先の予定まですべて埋まっている」とおっしゃっていました。
ツアーやアクティビティを提供している方も、当然Airbnbから得た収入や関連する経費を確定申告しなければなりません。
消費税について
個人的には民泊に関しては消費税は課税取引だと考えています。
消費税基本通達7-2-16において、非居住者に対する役務の提供で免税とならないものの例示として、「国内における飲食又は宿泊」とあります。宿泊料を受けて住宅を外国字旅行者に宿泊させる事業は消費税の課税取引になります。
ただし”消費税の課税取引を行っている”ということと、”消費税の確定申告をしなければならない”ということは同じではありません。消費税の申告については、その方の状況によりますので、税務署や税理士に確認ください。
最後に
私自身はセンスがなくて、Airbnbを2年ほどで辞めることにしました。そのあとにコロナがあって、「辞めてよかった」と思っていました。ただコロナ後の外国人旅行客の増加により、インバウンド需要はまた盛り返しており、一部においてはコロナ前よりも上昇している業界もあると聞いております。民泊新法(住宅宿泊事業法)は180日の日数制限があったりしますが、しかしうまく運用できれば大きな収益を上げることができると思っています。
私はうまく収益を上げることができなかったですが、しかし宿泊者とのコミュニケーションなどは楽しかったですし、役立つ情報を提供して感謝された時は嬉しかったです。やりがいを感じることができる事業だと思います。
ただ確定申告を忘れてはいけません。
もし確定申告をご依頼いただけるのであれば、お気軽にお問い合わせください。
(なお民泊に関して無料相談は提供していませんので、ご了承ください)