外資系企業には気をつけなければならない税務の論点が複数あります。その一つが過少資本税制です。外資系企業が資金調達する際に、海外の親会社から一時的にお金を借りるということはよく実施されることだと思います。
借入金であれば、金銭消費貸借契約を結んで、その中で金利を決めて、定期的に利息を支払いますよね。その利息を支払う際に意識しなければならないことが3つあります。
移転価格税制
まずは利率が適正なのか?という観点があります。海外の親会社と締結した金銭消費貸借契約書の中で決めた利率ですね。たとえば金利を5%とした場合に、その利率が適切なのか?ということです。
本来金利は自由に決めていいはずですが、親会社との間であれば不適切な利率になる可能性もあります。例えば利率を100%としてしまうこともできるかもしれません。100%はあまりに高すぎますよね。
そのような資本関係がある会社間取引の妥当性を検証するのが移転価格税制です。100%の利率は高すぎるので、利息が損金算入できません、とされてしまう可能性があります。
ここで移転価格の細かい話はしませんが、利率については常識的なレベルがあると思います。その常識的なレベルの利率を使う必要があります。
源泉徴収と租税条約
利息を支払う際には、源泉徴収をしなければなりません。その利率は約20%です。20%の源泉徴収をした後の金額を、貸主に支払うことになります。
貸主が海外にいるときにも同じで、源泉徴収を忘れてはいけません。ただ源泉徴収税率は常に約20%というわけではありません。源泉徴収税率は租税条約によって源泉徴収税率の上限が決められています。
例えばアメリカとの租税条約であれば、従来は10%でしたが、2019年に施行された新しい租税条約で免税となりました。なので、利子について源泉徴収をする必要がありません。
ただ注意点があります。利子の額を支払う前に、租税条約の届出書を税務署に提出する必要があります。租税条約の届出書には、支払う相手先の国で発行された居住者証明書をつける必要がある国があります(アメリカやイギリス、オーストラリアなど)。
居住者証明書の入手には1~2か月要することもあります。なので、租税条約の届出書の準備は早めに取り組む必要があります。
過少資本税制
最後に気をつけなければならない論点が過少資本税制です。
過少資本税制とは、日本の外資系企業が海外の親会社をはじめとする関連会社から資金提供を受ける際に、出資に代えて過大な貸付けを受け入れることにより税負担を軽減しようとする租税回避を防止するために、出資と貸付けの比率が一定割合を超える場合に、その超える部分に対応する支払利子の損金算入を認めない制度になります。
日本の外資系企業が資金調達をする際にとりうる選択肢は以下の3つになります。
- 出資を受ける
- 借入を受ける
- 日本の外資系企業が払うべき経費を立替払いしてもらう
①と②の違いを考えてみましょう。②の場合には、利息を支払うことになり、その利息は損金算入できます。つまり費用が増えます。結果として、②の場合の方が利益が圧縮され、税負担が小さくなります。
それ自体はおかしなことではありませんが、①と②で税負担が違うという不公平な状況ができるのも事実です。そこで、借入金の額を大きくして、金利を高くすることによる税負担の軽減は認めないというのが過少資本税制です。
一つの基準として、借入金は資本金の3倍までになります。資本金の3倍を超えた借入金の額がある場合に要注意になります。
海外に進出している企業においても過少資本税制には気をつけなければなりません。先進国の多くは過少資本税制があります。イギリスなど一部の国では、厳格な運用をしていると聞きますので、海外進出時の過少資本税制にも要注意です。
過少資本税制と過大支払利子税制の違い
過大な借入金による課税回避を制限するものとして、過小資本税制の他に過大支払利子税制というのが存在しています。
(全く正確ではありませんが)PLの支払利息の額が、利益の20%以上を超えるのであれば、超えた部分の支払利息は損金不算入にするというものです。アメリカでは、アーニングス・ストリッピング・ルール(Earnings Stripping Rule 利益はがし規定)として以前から存在していましたが、日本でも2013年に導入され、2019年の税制改正により、より厳しくなりました。
過大な借入金の額を制限するという意味では同じですが、過少資本税制はBSの借入金残高と資本金に着目するのに対し、過大支払利子税制はPLの支払利息と利益に着目します。
つまり過少資本税制はBSアプローチであるのに対し、過大支払利子税制はPLアプローチと考えることができるでしょう。
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