(結論)コストプラス方式とは?
外資系企業を日本で設立する時、あるいは海外で子会社を設立する際に、「どのように売上を計上するべきか?」は悩む論点です。その際に、簡易的な方法として、採用されるのがコストプラス方式です。この会社で要したコストの105%と売上としてしまう簡易的な方法です。プライシングの一つの方法ですが、広く採用されているものです。
併せてこちらもご参照ください。
はじめに
海外進出時・外資系企業が日本に子会社設立の際に考えるのがバックオフィスのこと。バックオフィスと言っても多岐にわたりますが、以下が含まれます。
・人事
・給与計算
・会計
・税金
・総務
・契約
・法務
・ITシステム
ほかほかほか
会社を経営していくには、バックオフィスの存在が不可欠です。しかし設立直後には、バックオフィスの業務を委託できる人を採用するもの困難です。弊社の外資系企業のお客様の多くが、設立直後はバックオフィス業務の一部を、親会社などでサポートしています。
特にIT企業など国境を越えてサービス提供できる会社の場合には、海外の親会社から日本のお客様に直接サービス提供をしています。そしてその日本子会社は、海外親会社の営業サポートに徹する形態がほとんどです。その場合に採用されるのが、いわゆるコストプラス方式(cost plus method)です。105%法人などと言ったりします。
(ちなみにコストプラス方式の反対の言葉はバイセル(buy sell)方式です。日本子会社で商品を仕入れて、日本法人が日本の顧客に販売する方式です。)
そのコストプラス方式が、2023年12月の税務通信で紹介されていました。税務通信というのは、税理士のほとんどすべてが読んでいる雑誌です。コストプラス方式自体は、いままで認知度が低かったと思いますが、それが一般化してきたのかもしれません。今回はその税務通信の記事を引用しながら、コストプラス方式の解説をします。
コストプラス方式のまえに、移転価格税制について
日本法人があるということは、そこで事業活動を行っているということになります。第三者との取引であれば取引価格が問題になることはありません。ただし親会社など関係会社との取引の場合、その販売価格が自由に決めることができ、結果として低税率国に所得が逃げてしまいます。それを防ぐために移転価格税制というのが存在しています。
(引用)
移転価格税制は,昔からよく,次のように説明されてきました。
法人 が,赤の他人には100円で売る商品を, 国外関連者 には97円で売る。法人は3円損するが,国外関連者は3円安く仕入れる分,利益が増える。この3円が,「取引価格が 独立企業間価格 (100円)ではないために,日本から海外に流出した所得」である。法人が国外関連者から通常より高く仕入れても,同様の結果になる。移転価格税制はこれを防ぎ,取引から生じる所得を,日本と外国の間で適正に配分することを目的としている。 |
移転価格税制においては,「 独立企業間価格 (Arm’s Length Price:以下「 ALP 」といいます)」の適切な算定が,申告や調査の際の最重要事項になります。
ALPとは,取引が,独立した事業者(第三者)との間で,通常の取引条件に従って行われるとした場合に支払われるべき対価の額です( 措法66の4 ②)。価格がALPになっていれば,移転価格の問題はありません。ALPの“arm’s length”とは「腕の長さ」のことですが,一定の距離を置く(よそよそしい)という意味もあります。親子間の取引であっても特別扱いするのではなく,当事者が果たした役割に見合った適切な利益を双方に配分するための,「ソーシャルディスタンス価格」です。
(引用終わり)
移転価格に関する税務調査について
移転価格税制に関する調査は、トヨタ自動車のような大企業に対するものが中心で、中小企業は対象外でした。でも最近は中小企業でも移転価格の調査が行われているようです。それを”簡易移転価格(TP)調査”と税務通信の記事では紹介されています。我々も、一般的な法人税の調査の一環として、独立企業間価格の調査を行われた経験があります。
簡易TP調査ではALP算定に簡便法が使える
ここからは税務通信の記事を引用しましょう
(引用)
簡易TP調査ではALP算定に簡便法が使える
本格TPも簡易TPも,調査の根拠となる税法は同じです。したがって,簡易TP調査も,グループ内で行われた低付加価値IGSという役務提供の対価が,ALPになっているか否かを調査するものです。しかし,ここで大きく異なる点は,簡易TP調査が対象とする低付加価値IGS等の対価については,例外的に, 簡便なALPの算定方法 を選択できるという点です。
本格TP調査よりもALPの算定に簡易な方法を使う調査,ということであって,調査が甘いという意味ではありませんが,この 簡便法 の選択により,多くの場合,納税者が有利になります。
低付加価値IGSの代表的な例は,親会社が海外子会社の業務の効率化やサポートのために行う,総務的・管理的な内部事務です。例えば,財務,会計,法務,情報通信サービス,人事や研修,福利厚生,広報の支援のような事務になります。簡易TP調査とは,このようなサポート事務の対価が子会社から回収されているか否かを調べて,回収されていなければALP相当額の回収を指摘し,回収されていてもALPに足りない場合は,差額の回収を指摘するものです。
なお,IGSや低付加価値IGSの考え方は,国税庁HPに掲載の「移転価格事務運営要領」(以下「要領」といいます)の3-10(グループ内の活動がIGSに該当する判定)と,3-11(IGSが低付加価値IGSに該当する判定とALP算定の簡便法)で確認できます。
(引用終わり)
サポート事務業務としては、以下が挙げられています。
・会計帳簿や予算作成
・財務監査
・雇用・教育・福利厚生などの従業員管理
・情報通信サービス
・債権債務管理
・法務
・税務
この場合に、総原価の105%をALPとすることができます(移転価格事務運営要領3-11)
総原価の考え方として、以下のように紹介されています
(引用)
上記5.の「回収すべき対価(ALP)」の算定に当たっては,サポート事務等がIGSに該当し,さらに低付加価値IGS等に該当する場合には, 簡便法 が選択できます(【表3】①~③)。簡便法とは,役務提供に要した総原価そのもの,又はその105%相当額をALPとする方法です。
ここでの「 総原価 」には,その役務提供に係る直接費(担当者の給与・手当・交通費や法定福利費等)だけではなく,間接費(役務提供の担当部門や補助部門の一般管理費等)も含まれます。総原価の計算については,役務を提供した社員に係る1年分の直接費と間接費を集計し,その総額を,合理的な配賦基準(例えば「社員の役務提供の従事日数/365日」)を用いて按分する,などの方法が考えられます。
そして,【表3】①のALPは, 総原価に5%のマークアップ (利益)を乗せたものです。例えば,原則的な方法の1つである原価基準法を使うとすれば,マークアップ率が命ですので,算定に大きな手間がかかります。そこを,「とにかく利益は5%」と割り切るのが①の方法です。
(引用終わり)
弊社でも総原価の計算方法は様々なパターンがあります。
・販管費だけを総原価にするケース
・販管費のみならず営業外費用も加えたものを総原価にするケース
・すべてのコストから金融費用(利子や為替差損益など)を控除したものを総原価にするケース
コストプラス方式は税務的なメリットは多い
移転価格税制の観点からALPを算定しなければなりませんが、適正なALP算定は極めて困難です。
簡便的なALP算定方法であるコストプラス方式は、その点極めて簡易的な方法で計算できますし、法律上の根拠もあります。したがって移転価格税制のリスクも回避できます。
弊社ではPE(Permanent Establishment 恒久的施設)のリスクを有している外資系企業に対して、PEリスクを回避するためにコストプラス方式による日本子会社設立を提案することもあります。
また消費税の観点でもメリットがあります。海外に対する日本からの役務提供は免税取引となります。したがって、消費税の課税事業者であれば、総原価に対する消費税の還付を受けることができるかもしれません。
コストプラス方式の事業上のデメリット
ただコストプラス方式を採用する場合のデメリットは、日本子会社はあくまで海外親会社のサポートに徹することとなり、日本子会社単体での営業活動はできないことです。海外親会社以外への請求書も発行できません。したがって、コストプラス方式を採用できる業種は限られるかもしれません。
日本親会社で海外子会社のパターンもコストプラス方式はもちろん可能
税務通信では以下のパターンが紹介されていました。
この場合、X国にあるS社がコストプラス方式を採用できる可能性はあります。規模が大きくない子会社の面倒を見る場合、その海外の子会社がコストプラス方式を採用することを検討すべきです。
昔、とある税務調査で、コストプラス方式を見て「経費の付け替えではないか!」と調査官に指摘された経験があります。確かに移転価格を知らない素人から見れば、経費の付け替えに見えるかもしれませんが、租税回避のためのスキームでは決してありません。
その他、複数の税務調査の対応実績がありますが、コストプラス自体を否認された経験はありません。その点はご安心ください。
補足
なお以下を補足いたします。
①コストプラスを採用するためには、親子間でのコストプラス契約(cost plus agreement)が絶対に必要です。
②105%でなければならないわけではありません。親子間の機能の分担によって、その割合が変わることはあると考えます。詳細についてはお問い合わせください。
最後に
外資系企業が、日本に法人を設立するのであれば、コストプラス方式は絶対に検討すべき事項です。移転価格やPEリスクを回避するのとともに、日本の税負担の軽減にもつながるかもしれません。プロビタス税理士法人では多くのコストプラス案件を取り扱っております。興味がございましたら、お気軽にお問い合わせください。(なお本記事は税務通信2021年9月6日および2023年12月4日の記事をもとに作成しました)
併せてこちらの記事もご参照ください。