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【PE課税とは何か?】過去の裁判事例から読み解くPE課税の実際

PE(Permanent Establishment)いわゆる恒久的施設についての情報はあっても、どのような課税がされるかまでは情報が少ないのが実際です。過去の裁判例を読み解くことによって、PE課税の実際を硬派に探ります
目次

国際税務に関わっている人であれば一度は聞いたことがある恒久的施設、いわゆるPE(Permanent Establishment)。国際税務のコンサルタントと話をすると、「PE課税のリスクがあります」とよく言います。私も言うことがあります。ただ実務でPE課税の体験があった人は多くありません。私も国際税務に関する税務調査の経験がありますが、税務調査の現場などでPE課税の指摘を受けた経験は多くありません。

「PE課税とは何なのか?」

外資系企業が日本進出する際に、PE課税についての理解が必須です。ただ深く考えずに日本進出を始めてしまっている事例も見受けられます。その場合のPEリスクについて、我々のような専門家であっても悩むことが多いです。

そこで、過去に裁判になった事例から、PE課税の実際を読み解きます。

はじめに…”PE課税”とは何か?

国際税務においては、もうけがあった場合に「日本で課税されるのか」という課税権の特定が大事になります。国際税務においては、「PEなければ課税なし」という格言があるほど、課税権の範囲とPEとは密接に関係しています。つまり日本国内にPEがなければ、日本では課税がないのです(事業所得の場合)。日本国内のPEの有無というのは、日本での税負担を考えるうえで、とっても大事なことなのです。しかしPEの定義は概念的であり抽象的です。そこで具体化させるためには、裁判例を通じた理解が有効であると考えます。

過去にPEに関して、裁判まで争われた事例は多くありません。有名な裁判の一つをご紹介します。

倉庫PE事件

東京高裁の平成28年1月28日の裁判です。

判決文は以下です。

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2016/pdf/12789.pdf

非居住者であるインターネット販売業者の倉庫が日米租税条約上の恒久的施設(PE)に該当するとして、その収益の一部が日本において課税されたことに関する裁判です。

海外在住のインターネット販売業者が日本国内で商品を販売する際に利用していた倉庫がPEに該当するかどうかが争われました。その倉庫では、商品の保管と引き渡しを行っていたということでした。

PEとは

日米租税条約において、PEに該当する要件としては以下があるとされています。

・事業を行う場所であること

・その場所が地理的に一定していること

・一定の期間その場所が存在していること

・自己の場所であること

・その場所を通じて事業が行われていること

ただし日米租税条約第5条において、商品の保管や引渡のためにのみ使用する施設においては、明示的にPEの範囲から除外されています。補助的準備的な施設はPEには該当しないことになっています。

裁判所の判断

裁判所は、論点となった倉庫が、補助的準備的な施設ではないとして、もうけの一部を日本国内で申告することを命じました。納税者敗訴です。インターネット販売業者にとって、商品の保管や引渡は「補助的準備的な施設ではない」という判断でした。

補助的準備的というのは「活動が企業の全体としての活動の本質的かつ重要な部分を形成しているかどうかという観点から検討」すべきということで、商品の保管/引き渡しなどは重要な部分であると認定されてしまいました。

そして、「いくら日本で申告すべきか?」という判断ですが、この点において、裁判所は、倉庫が販売拠点であったという認定をして、販売収益相当額が日本で申告すべき所得であるという判断をしました。いわゆる推計課税であり、税務当局が算定した所得金額がそのまま採用されてしまいました。

租税条約の届出書について

裁判において、租税条約の適用を受けるために届け出書の提出が必要かについても判断がされていました。届出書の提出義務においては法律で定められているわけではなく、財務省令で定められているだけなので、届出書の提出がなくても租税条約の適用を受けることができるとされてました。

憲法98条2項において租税条約は国内法に優先されるとされており、租税条約を国内法でもって制限するとすれば憲法違反の問題があるからということのようです。

最後に(個人の方向け)

個人的な意見として、インターネットで商品を販売するにあたって、商品の保管や引渡が付加価値を生み出す業務だとは思いません。そういう観点では、倉庫の業務は補助的な業務であるとは思います。ただ、この点について真正面から国と争うと、ほぼ勝ち目がないのが現実である、と言うのがこの裁判事例から読む取れるのではないでしょうか?

弊社では、海外企業と業務委託契約を結び、リモートワークとして勤務されている個人事業主からのご相談を受けることがあります。そのような個人事業主からのご相談の際には、常にPE課税リスクのことを検討します。例えば以下のようなケースであれば、対応しています。

・海外企業で、日本に法人を作る前に、市場調査をする

・ 日本に法人があった外資系企業だったのだが、日本市場から撤退して、その清算業務をする

・日本国内での取引金額がとても小さい(年間数百万円)

最後に(企業の方向け)

PEに該当するかどうかは、その施設で行っている活動が補助的準備的ということであるが、その判定は事実認定という、税務署のさじ加減一つということがわかりました。PEリスクについて懸念があるのであれば、PEを作ってしまうというのが、弊社の推奨です。外資系企業を作ってしまうことによってPE課税を回避するのです。その場合、コストプラス方式を組み合わせて提案しています。

もし興味がありましたらお気軽にお問い合わせください。

この記事の執筆者

片山 康史

税理士 / 中小企業診断士

プロビタス税理士法人代表。 「自分の知識と経験で皆を幸せに」をモットーに、税務の問題を解決する情報を発信しています。外資系企業向けの国際税務が得意です。