顧問先から質問を受けた件です。とある海外の国に進出するにあたり、子会社を設立しようかと思っていたけど、時間がかかると事業リスクがあるので、M&Aにより現地の企業を買収して子会社化することを考えているということでした。
その場合に税務上気を付けなければならいことを教えてほしいという質問でした。
デューデリジェンス
自ら海外子会社を設立する場合と最も大きな違いは、ゼロからのスタートではないということです。買収する会社がすでに存在して事業を行っており、さまざまな債権債務を有しているということです。目に見える債権債務だけなら決算書を見ればいいですが、問題は目に見えない潜在的な債権債務もあるということです。
その目に見えない潜在的な問題、ポテンシャルリスクを洗い出して、それでも買収するかどうかを考えなければなりません。その洗い出す活動のことをデューデリジェンス(Due Diligence)といいます。
買収の意思決定を行うにあたり、対象企業の実態を把握して、潜在的なリスクを洗い出すことを目的としています。
デューデリジェンスの費用
買収した場合、日本の親会社の決算書には、子会社株式の取得という形で現れます。税務上では、株式取得に要した付随費用は、株式の取得価格に含めないといけないとされています。
デューデリジェンスの費用は非常に大きいことも多く、できれば即時に損金にしたいと思われるでしょう。株式の取得価格に含まれてしまうと、売却時点まで損金に算入されないことになり、そうなると結果的に売却しない限り損金にできないということになります。
明確な通達があるわけではありませんが、一般的にはデューデリジェンスの費用は株式の取得価格に算入すべきものとは考えてます。ただケースバイケースで以下のような整理がされるようです。
- 特定の有価証券を取得することを決定した時点以前の調査費用:損金処理
- 特定の有価証券を取得することを決定した時点以降の調査費用:取得価額
なおデューデリジェンスの費用と同様に大きな費用はFA報酬(アドバイザリー報酬)だと思いますが、これは株式の取得価格に算入するものだと考えます。
成功報酬であることがほとんどだと思いますので、そうであれば完全に取得に要した費用とされると考えます。
買収直後にうまくいかないことが分かった場合
買収したは良いけど、いざ経営を始めてみるといろんな問題があって、うまく軌道に乗らないということもあります。その場合、その買収した海外子会社の再建のために、日本親会社が引き継いだ債権を放棄するという形で支援を行うことがあります。
その場合の損失が損金算入できるかという問題があります。結論としては、”結構難しい”です。
税務上はその支援に経済合理性がある場合にのみ損金算入を認めるということとなっています。簡単に言うと”放置して倒産させるより、支援して再建したほうが、日本親会社の損失が小さくなる”というのが経済合理性です。
その経済合理性を証明するためには、合理的な再建計画を作成する必要があります。その再建計画は多くの場合、認めてもらえないです。
何が言いたいのかというと、デューデリジェンスの結果を軽視して買収をした結果、うまくいかなかったときの損失は結構大きいということです。海外進出はテンションが上がるのはわかります。ただ国際税務専門の税理士の観点からすると、適切なデューデリジェンスとともに慎重かつ冷静な意思決定が何よりも重要だと考えます。
ご不明な点がございましたら、お気軽にプロビタス税理士法人にお問い合わせください。
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