海外に子会社を有している法人の税務調査の際に、必ず念入りに調べられる項目の一つとして海外子会社との金銭のやり取りがあります。
税務当局は税務調査の前に、海外との入出金情報はすべて調べ上げてから調査に来るようです。その裏付けをしていくイメージです。
“本来なら海外子会社から徴収すべき金銭を徴収していなかった”
そのような事実を探し出すことに税務調査員は躍起になります。時にはハッタリや言いがかりのようなものもあります。そこで、あらかじめどのような役務提供が、対価を徴収しなければならないのかを知っておく必要があります。
子会社から対価を回収すべき役務提供の一覧
移転価格事務運営指針2-9において、以下のような活動が対価を回収すべき役務提供の例として挙げられています。
- イ 企画又は調整
- ロ 予算の作成又は管理
- ハ 会計、税務又は法務
- ニ 債権の管理又は回収
- ホ 情報通信システムの運用、保守又は管理
- へ キャッシュフロー又は支払能力の管理
- ト 資金の運用又は調達
- チ 利子率又は外国為替レートに係るリスク管理
- リ 製造、購買、物流又はマーケティングに係る支援
- ヌ 従業員の雇用、配置又は教育
- ル 従業員の給与、保険等に関する事務
- ヲ 広告宣伝(リに掲げるマーケティングに係る支援を除く。)
海外のグループ会社との間において役務提供が行われた場合、第三者間で対価が支払われるのと同様に、対価を支払う必要があります。
その役務提供が“経済的または商業的価値を有する”ものであれば、対価を支払わないといけないことになっています。その”経済的または商業的価値を有する”ものの例が上記になります。
法人が、国外関連者の要請に応じて随時役務の提供を行い得るよう人員や設備等を利用可能な状態に定常的に維持している場合には、それだけで役務提供に該当することになり、対価を徴収する必要があります。
例えばITシステムのヘルプデスクが日本の本社のみにある、というのは典型的な例です。コストをかけて国外関連者のためにヘルプデスクを設置しているので、そのコストの一部は海外の子会社に請求しなさいということです。
対価を回収すべき役務提供に該当しないもの
すべての役務提供について対価を回収すべきということではありません。具体的には移転価格事務運営指針2-9(3)に実際の例が挙げられています。
例えば”株主活動”と呼ばれる業務については対価回収の必要はないものとされています。また海外子会社で経理を行った結果を日本本社経理部でチェックするということも対象外です。
経理という役務提供自体は対価を徴収すべき”経済的または商業的価値を有する”ものであることは留意してください。
以下抜粋です
法人が国外関連者に対し行う(1)の活動が、役務の提供に該当するかどうかを検討するに当たり、次に掲げる活動は国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものではないことに留意する。
イ 法人が国外関連者に対し、非関連者が当該国外関連者に行う役務の提供又は当該国外関連者が自らのために行う(1)の活動と重複する活動を行う場合における当該重複する活動(ただし、その重複が一時的であると認められる場合、又は当該重複する活動が事業判断の誤りに係るリスクを減少させるために手続上重複して行われるチェック等であると認められる場合を除く。)
ロ 国外関連者に対し株主としての地位を有する法人が、専ら自らのために行う株主としての法令上の権利の行使又は義務の履行に係る活動(以下「株主活動」という。)で、例えば次に掲げるもの
(イ) 親会社が実施する株主総会の開催や株式の発行など、親会社が遵守すべき法令に基づいて行う活動
(ロ) 親会社が金融商品取引法に基づく有価証券報告書等を作成するための活動
(注) 親会社が子会社等に対して行う特定の業務に係る企画、緊急時の管理、技術的助言、日々の経営に関する支援等は、株主としての地位を有する者が専ら株主として自らのために行うものとは認められないことから、株主活動には該当しない。
移転価格事務運営指針2-9(3)
また、親会社が子会社等に対する投資の保全を目的として行う活動で、かつ、当該子会社等にとって経済的又は商業的価値を有するものは役務の提供に該当する。
請求すべき金額
日本の法人が実施した役務提供に対価を回収すべきとなった場合において、では”いくら回収すべきか?”というのも議論になるところです。
常識的に考えれば、その役務提供に要した費用に一定の利益を付した金額でしょう。というのも第三者間の取引は、税務上は時価(もしくは移転価格的には独立企業間価格)で行うべきです。その時価というのは、役務提供の要した費用、つまり原価に適正な利益を付した金額だからです。
ただ製造業の会社が、海外子会社のために経理業務の役務提供を行った場合、それは本業ではありません。その会社にとって適正な利益と言われても算定が困難です。
あくまでバックオフィスが行った付随業務です。そのような場合には、その役務提供に要した総費用でも良いものと考えます。時価であったり独立企業間価格の算定が困難だからです。
事務運営指針2-9の抜粋
国際税務の調査を受けた場合には、事務運営指針2-9は必ず読んでおきたい法令の一つです。こちらのサイトにまとまっていますが、コピペしてみました。
(1)法人が国外関連者に対し、次に掲げるような経営・財務・業務・事務管理上の活動を行う場合において、当該活動が役務の提供に該当するかどうかは、当該活動が当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものかどうかにより判断する。
(1) In cases where a corporation performs the following activities regarding management, finance, business, and administration for a foreign affiliate, whether the activities are deemed to be the provision of services shall be judged on the basis of whether the activities have economic or commercial value for the foreign affiliate.
具体的には、当該国外関連者と同様の状況にある非関連者が他の非関連者からこれと同じ活動を受けた場合に対価を支払うかどうか、又は当該法人が当該活動を行わなかったとした場合に国外関連者自らがこれと同じ活動を行う必要があると認められるかどうかにより判断する。
Specifically, it shall be judged on the basis of whether it can be deemed that a non-affiliate under similar circumstances as the foreign affiliate pays another non-affiliate to do the same activities on its behalf, or the foreign affiliate would need to perform the same activities for itself if the corporation did not perform the activities:
イ 企画又は調整
(a) Planning and/or coordination;ロ 予算の作成又は管理
(b) Budgeting and/or budgetary control;ハ 会計、税務又は法務
(c) Accounting, tax, and/or legal services;ニ 債権の管理又は回収
(d) Management and/or calling of credit;ホ 情報通信システムの運用、保守又は管理
(e) Operation, maintenance, and/or management of computer networks;へ キャッシュフロー又は支払能力の管理
(f) Supervision of cash flow and/or ability to pay;ト 資金の運用又は調達
(g) Investing and/or raising of funds;チ 利子率又は外国為替レートに係るリスク管理
(h) Management of interest and/or exchange rate risks;リ 製造、購買、物流又はマーケティングに係る支援
(i) Assistance in the fields of production, purchase, distribution, and/or marketing;ヌ 従業員の雇用、配置又は教育
(j) Recruitment, assignment and/or training of employees;ル 従業員の給与、保険等に関する事務
(k) Affairs concerning remuneration, insurance, etc. of employees;ヲ 広告宣伝(リに掲げるマーケティングに係る支援を除く。)
(l) Advertisement (excluding assistance in the field of marketing listed in (i)).(2)法人が、国外関連者の要請に応じて随時役務の提供を行い得るよう人員や設備等を利用可能な状態に定常的に維持している場合には、かかる状態を維持していること自体が役務の提供に該当することに留意する。
(2) In cases where a corporation continuously maintains staff and equipment that are ready to provide services for a foreign affiliate upon request at any time, it shall be noted that maintaining this state of readiness itself is deemed to be the provision of services.
(3)法人が国外関連者に対し行う(1)の活動が、役務の提供に該当するかどうかを検討するに当たり、次に掲げる活動は国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものではないことに留意する。
(3) In examining whether the activities set forth in (1) that are performed by a corporation for a foreign affiliate are deemed to be the provision of services, it shall be noted that the following activities do not have economic or commercial value for the foreign affiliate:
イ 法人が国外関連者に対し、非関連者が当該国外関連者に行う役務の提供又は当該国外関連者が自らのために行う(1)の活動と重複する活動を行う場合における当該重複する活動(ただし、その重複が一時的であると認められる場合、又は当該重複する活動が事業判断の誤りに係るリスクを減少させるために手続上重複して行われるチェック等であると認められる場合を除く。)
(a) In cases where the corporation performs for the foreign affiliate activities that duplicate the services provided by a non-affiliate for the foreign affiliate or activities set forth in (1) that are performed by the foreign affiliate itself, the duplicate activities (excluding cases where it is deemed that such duplication is only temporary or the duplication is undertaken to reduce the risk of a wrong business decision);
ロ 国外関連者に対し株主としての地位を有する法人が、専ら自らのために行う株主としての法令上の権利の行使又は義務の履行に係る活動(以下「株主活動」という。)で、例えば次に掲げるもの
(b) Such activities as follows that relate to the exercise of right or performance of obligation under laws and regulations and which a corporation holding a status as a shareholder of a foreign affiliate performs solely on its own behalf as a shareholder (hereinafter referred to as “shareholder activities”):
(イ) 親会社が実施する株主総会の開催や株式の発行など、親会社が遵守すべき法令に基づいて行う活動
1.Activities performed by the parent company under laws and regulations that it is obligated to follow, such as the holding of shareholders meetings and issuing of shares;
(ロ) 親会社が金融商品取引法に基づく有価証券報告書等を作成するための活動
1.Activities performed by the parent company to prepare a securities report and other reports based on the Financial Instruments and Exchange Act.
(注) 親会社が子会社等に対して行う特定の業務に係る企画、緊急時の管理、技術的助言、日々の経営に関する支援等は、株主としての地位を有する者が専ら株主として自らのために行うものとは認められないことから、株主活動には該当しない。
(Note) Activities such as planning for specific business, administration in an emergency, technical advice and assistance concerning daily management provided by the parent company for its subsidiary companies, etc. shall not fall under the category of shareholder activities, because it cannot be deemed that such activities are performed by a person holding a status as a shareholder solely on his/her own behalf as a shareholder.
また、親会社が子会社等に対する投資の保全を目的として行う活動で、かつ、当該子会社等にとって経済的又は商業的価値を有するものは役務の提供に該当する。
Activities that the parent company performs for the purpose of maintaining the investment in its subsidiary companies, etc. and which have economic or commercial value for the subsidiary companies, etc. shall be deemed to be the provision of services.
(4)(1)から(3)までの取扱いは、国外関連者が法人に対して行う活動について準用する。
(4) The treatment set forth in (1) to (3) shall be applied mutatis mutandis with regard to activities performed by a foreign affiliate for a corporation.
(5)法人が国外関連者に対し支払うべき役務の提供に係る対価の額の適否の検討に際して、当該法人に対し、当該国外関連者から受けた役務の内容等が記載された書類等の提示又は提出を求める。
(5) In examining whether or not the consideration that a corporation shall pay to a foreign affiliate for the provision of services is appropriate, the corporation shall be required to present or submit documents containing the details of the services that it received from the foreign affiliate.
この場合において、当該役務の提供に係る実態等が確認できないときには、措置法第66条の4第3項等の規定の適用について検討することに留意する。
In this case, where the actual circumstances relating to the provision of the services cannot be confirmed, it shall be noted that the application of the provisions such as Article 66-4, paragraph (3) of the ASMT is to be considered.
(措置法通達66の4(6)-5に定める方法以外の方法による役務提供取引の検討)
(Examination of Service Provision Transactions through Methods other than Those Prescribed in ASMT Directive 66-4(6)-5)
事務運営指針2-9
最後に
そのような指摘は、リスクを取って海外進出を頑張っている企業の足を引っ張る国家権力による嫌がらせ、というのが個人的な感想です。
しかし、公然とそのような嫌がらせが行われているのが事実です。そのような嫌がらせを受けないための事前の準備が本当に大事です。
弊社としては、105%法人(サービスカンパニー、コストプラスカンパニー)の活用が極めて有効だと思っています。関心がございましたらお気軽にお問い合わせください。
ご覧になっていただき、誠にありがとうございました。
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- 会計事務所に質問しても、すぐに答えが来ない